独りぼっちのマグカップ ページ12
とある某日の夜、高架下。草薙と遊作はブルーライトを浴びながら作業をする。いつものマグカップ、遊作はそれに熱々のコーヒーを注いで自分と草薙の分、テーブルの上に置いた。いつもならもう一つ、Aの分のマグカップがそこにあるはずなのに、今日はそれはなく、食器棚の上で寂しそうに佇んでいた。作業をしていた草薙がぼやく。
「除去プログラムのおかげでアナザーの騒ぎもだいぶ落ち着いてきたようだ」
『さすが電脳ウイルスをバラまいた張本人が作っただけに効果バッチリだな』
滝響子の情報を画面に映し出し、頷く二人。しかし、その隣。遊作だけが深刻そうな顔で画面を見つめていた。遊作の顔を見て、怪訝そうに草薙が彼の名前を呼ぶ。
「どうした?」
「…今までハノイの騎士とLINK VRAINSで戦っただけだった。だが、今回のことで俺たちが戦っているのは現実の世界の奴だって実感した。
……それに、あの日から、Aの様子がおかしい」
「あぁ、それは薄々俺も勘づいていたさ」
『Aちゃんの様子がおかしいの、あの日、滝響子の家を出た時からだっけ?』
「いや、恐らくもう少し前。滝響子の書斎を出た時からだ」
普段はそれなりに饒舌な彼女が喋らなくなったのはその時だ。Aiはよく見てるなぁ、とジト目で呟く。あの日、部屋の中が薄暗くはっきりとは見えなかったもののAの顔色は確かに悪かった。遊作は黙りこくったまま、マグカップを手にする。彼女は、このキッチンカーにも遊作の家にも来なくなった。来なくなったと言ってもほんの一週間程度。少し会えていないだけなのに、遊作の心はどんよりと雲がかかったように暗かった。いつも隣にいたA。こんな風に彼女が、何も告げずに離れていったことは無い。だけど、そばに居てくれと言ったこともなかった。彼女を縛る理由も、術も、遊作は何一つ持ちえなかった。
自分から彼女が離れることなんて予想すらしていなかったのだから。
遊作は珈琲を啜り、喉奥に流し込む。味がしない、それほど滅入っていた。
「会いたいなら行けよ遊作。待ってるだけじゃきっとアイツは来ないぞ」
「……あぁ、そうだな」
「それに、Aだってここの一員の前に女だ。俺の妹、悲しませるなよ?」
『今までAちゃんに舵取りしてもらってたんだから、ぷぷ』
「明日、Aに会いにいく」
Aに確実に会う方法、それなら…。遊作は明日のことを考えて、その場で深呼吸をした。
66人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
遊真 - これから主人公がどうなっていくのかが凄く気になります!これからも頑張ってください! (2019年8月14日 16時) (レス) id: 70b9e10207 (このIDを非表示/違反報告)
リナ - しゅりんぷさんの作品、早く読みたいです! (2019年8月6日 23時) (レス) id: cfdd277789 (このIDを非表示/違反報告)
篝月(プロフ) - 初めから読んだので、続きが凄く気になります! (2019年5月24日 23時) (レス) id: 7982b0814b (このIDを非表示/違反報告)
しゅりんぷ(プロフ) - 白哉さん» コメントありがとうございます。ソウルバーナーいいですよね。いつか二人も出せるようにしたいなとは思っております。それまでどうかこの小説とお付き合い願えたら嬉しいです。 (2019年4月1日 1時) (レス) id: a80e55b6ef (このIDを非表示/違反報告)
白哉 - できたら穂村尊とフレイム(ソウルバーナー)を出してほしいです。 (2019年1月20日 17時) (レス) id: 8418d83dca (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:しゅりんぷ | 作成日時:2017年12月13日 0時