場違いな安堵 ページ11
結局、彼女がログアウトしてくることは無かった。デュエルに負け、除去プログラムを独断で蒔いた彼女は粛清され、そっと。まるで大切なものを扱うように、リボルバーが彼女の瞳を閉じさせた。彼女がログアウトしなかったことを、喜んではいけない。なのに、内心ほっとしている自分がいて。Aは自身に嫌悪した。
滝響子の家を出て、キッチンカーで草薙に家へと送り届けてもらう。今日は遊作の家ではなく、Aの家に。Aは自分の家の前につくと、いつもと様子が違うAの心配をする二人に別れを告げ、中へと入っていった。
戸の鍵をすべて閉め、広いリビングのソファーでAは持ち帰った写真を取り出す。
「……このくま、って」
写真の中。誕生日プレゼントなのか、クマのぬいぐるみを嬉しそうに抱きしめる幼いA。Aはこのクマのぬいぐるみに見覚えがあった。彼女はその場を立ち上がり、自身の部屋へと早歩きで赴く。私室へと入った先、まっすぐ見つめたベッドの上。写真の中のAと全く同じクマのぬいぐるみがそこで鎮座していた。Aはクマのぬいぐるみを手に取る。
気づいてしまった。
自分の過去を知れば、彼の隣にはいられない。賢い彼女は全てを察する。自分の過去を彼に知られると、彼はAの事を敵として見るだろう。捨てられる、Aは無意識に手に力が籠る。クマのぬいぐるみの内臓、綿たちが握られた部分からぎゅっと逃げて、強く掴んだ部分が皺になり、さっきより幾分クマの目が虚ろに見えた。Aはそれを壁へと放り投げ、その場でむしゃくしゃする気持ちに自身の頭をかいた。
どうすればいいか分からない、
遊作に隠し事などできるのか。自身を彼の前で偽り、それを通せるのだろうか。
Aは冷たいフローリングに寝転び、目をつぶる。もう眠ってしまおう、そして忘れたフリをするのだ、自分自身に。
「……すてないで…わたしを、おいてかないで」
目をつぶり動かないAが涙を流して呟く。
数十年前、幼い少女が同じ言葉をこぼした。
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遊真 - これから主人公がどうなっていくのかが凄く気になります!これからも頑張ってください! (2019年8月14日 16時) (レス) id: 70b9e10207 (このIDを非表示/違反報告)
リナ - しゅりんぷさんの作品、早く読みたいです! (2019年8月6日 23時) (レス) id: cfdd277789 (このIDを非表示/違反報告)
篝月(プロフ) - 初めから読んだので、続きが凄く気になります! (2019年5月24日 23時) (レス) id: 7982b0814b (このIDを非表示/違反報告)
しゅりんぷ(プロフ) - 白哉さん» コメントありがとうございます。ソウルバーナーいいですよね。いつか二人も出せるようにしたいなとは思っております。それまでどうかこの小説とお付き合い願えたら嬉しいです。 (2019年4月1日 1時) (レス) id: a80e55b6ef (このIDを非表示/違反報告)
白哉 - できたら穂村尊とフレイム(ソウルバーナー)を出してほしいです。 (2019年1月20日 17時) (レス) id: 8418d83dca (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:しゅりんぷ | 作成日時:2017年12月13日 0時