苺は、私。23 （10/10up） ページ23
裕太side
直前だったから、席は二階のB列
それでも、センターブロックだから
舞台上の俺からAは、はっきり見える…
千穐楽の緊張感と裏腹に、
そこにAがいて観てくれてる…その安心感で
凄く穏やか気持ちで舞台に立てる
Aの存在が、自分の中で
こんなにも大きいなんて昨日までは知らなかった
Aがいれば、大丈夫
俺は…なんだって出来る…
ガウンを羽織って、ベルトを締める
観客席上、Aと同じ高さまで上がっていく先端
ユウタが、ボクシングパンツを着て
チャンピオンガウンを羽織り、光の中を頂点へ
俺が両手を広げると、両方にガウンが引かれて
スポットライトがあたる…
……はずだった
今まで、一度もこのシーンでのトラブルはない
ガウンのフードの隙間から覗くと
席から俺を見つめてるAが見える
ハンカチを口元に当てて
あれ、って…もう、泣き出しそうじゃん
また、苦しくなってんのかな…
辛いのかな…
大丈夫…かな
そう思ってる間に
効果音と共に、俺にスポットライトがあたる
タ、タターン
思い切り腕を伸ばした
いつもならここで…
タタタ、タタタ、タタターン
ガウンが…！？
！！
…ッ、！
え！？
袖が、抜けない…
ガウンが…取れない！？
！！
身体が、引っ張られる！
グラッと揺れた身体は、バランスを崩し
一瞬、観客席が目に映る
明らかに、驚いているお客さん達
小さな悲鳴が聞こえる…
目を閉じる人、口元を押さえる人
ヤバい…
落ちる…！
そう思った時だった
フードの隙間から見えたA
俺をじっと見つめてる…
こんな場面でも、目を逸らす事なく…
真っ直ぐに俺を見つめてる…
Aは、俺を信じてる
俺を信じてくれてるんだ
どんな時も…
.
.
こんな事くらいで、大事な千穐楽を台無しに
してたまるか
張り付いたガウンを剥ぎ取り
いつものように、舞台を続ける…
A…観てて
俺を、観てて
俺…頑張るから
最後まで、頑張るから…
だから
観てて…
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作者名：トウコ
| 作成日時：2018年9月29日 15時
