俺の彼女 ＊短いお話集＊ 29

悲恋 &T10 ページ21

裕太side



頼むから





今は



落ちないで…








あと少しだけ


そこに留まってて








溢れ落ちないで…









必死に

耐えたのに…




必死に

我慢したのに…









ポタ…









運悪く

落ちたのは…






彼女の

ベルベットのバレーシューズと

デニムの隙間









「……？…」









「え…」








「ごめんなさい…痛かった？」









「私…」



慌てて

指先から唇を、離した彼女









「泣かないで…」







「ね？」









「ほら…トゲは、取れたから…」







「泣かないで…」






「…ね、玉森さん…」








…








…








裕「何で…」









裕「どうして…」









裕「どうして…俺のナカに入ってくるの？」








裕「そんな風に…」







溢れる感情と涙





堰を切ったように

溢れ出した想い








裕「それに…俺は、子どもじゃない…」








裕「子ども扱いしないで！」







みんなそうだ


俺の事…本気で考えてくれない


本当の俺なんて見てない






裕「もういいッ！」







裕「もう…」







何もかも


どうでもいい…







「そんなつもりじゃ…」





「そんなつもりじゃないの…」









「ただ…」







ただ？





ただ…何？









「貴方に…」






「笑顔になって欲しくて…」








「笑って欲しくて…」









「ただ…」







「それだけ…なの…」









ポタ…







ポタ…ポタ…








今度は

俺の手の甲に落ちた涙







少し傾き始めた日差しを浴びて

光ってる…







君の…涙








裕「どうして…貴女が泣くの…」







何にも

関係ないのに…








貴女は

何の関係もない人なのに…









どうして…









裕「泣かないで…」








裕「お願い…泣かないで…」








これ以上

貴女の涙を見たら






俺は…






俺は…

貴女を諦められなくなる…








貴女を

他の誰かになんて返したくなくなる…








裕「お願い…」








思ったより下にあった彼女の顔に

近づく為に、身体を腰から屈め、

ゆっくり彼女の唇に

自分のそれを近づけて行く…








嫌って言われるかも、

チラッと頭を掠めたけど…



でも

大丈夫…？







スローモーションみたいな…



映画のワンシーンみたいな…





キス





俺が

君の涙を止める為にした…




キス

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