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著者に会っていたとしたなら、解らず屋、と吐き捨てていただろうし、愚者の文を世に回すな、と言いたくもなる。
読むに値する本だけを出版すればいいのに、と思う。読書が億劫な多くの人の理由の一つには、こういう筆者への不信だってあると思った。
筆者のご高説に冷めてしまうと、後は雑音交じりのラジオの方がまだ耳に入る。
解っているから、立ち上がった。
「……どうかされました？」
あんまりにもこの本に手を付けてから閉じるのが早かったからだろう、向かいのエーミールさんは首を傾げた。
彼は分厚い本や紙の資料を広げている。私の前でやっていいのだろうかと思うのだが、彼は一向気にしてないようであった。
この人はそう言えば、今は経済の事をやっていると言っていたか。
そんな事を思いながら、
「……この本、集中できなくて。諦めて、替えに行こうかと」
正直で、しかし柔らかな言い方にしたと思ったのだが、彼はその辺りをきっかり理解したようだった。
彼は、私がそれを理解できなかっただとか、単に集中力が足りていないのだとか、そういう単純な理解の仕方をしない。それは一種の信頼のようにも感じられた。
「ああ、それ」
と、エーミールさんは、本の背表紙を一瞥して、得心が言ったというような顔になった。
「私もあまり好きではないんですよね、此処だけの話」
はにかむように微笑んだ。
好きではない、と言う個人的な感想を言うに留めた辺りの彼の言葉選びの柔らかさが、私には好ましかった。
間違っている、と言うと角が立つ。
個人的な嗜好に一々口を出す方は、まだその野暮ったさが、誰にでもとまではいかなくとも広い人が理解できるから、あらそうですか、の一言で済む。
此処には私しかいないし、私も誰かに言いふらせる程知り合いもない。
それでもこう言う言い方をした辺り、彼の身に沁みついているのだろう。
「経済成長ばかりで貧困がどうにかなるとは思えませんから」
正鵠を射た言葉であった。
彼は研究者として、この著者よりも数段上にいると言う事に、優越感に近い感心を抱く。
「……そうですね」
と、だから私も相槌を打った。
「ケーキを大きくしただけで広く行き渡る訳ない」
＿＿国の、早く言う富、を、１ホールのケーキだと考える。
経済成長と言うのは、このケーキの大きさ自体を大きくすること。
一方貧困問題は、特に先進国では、ケーキの
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作者名：遥彼方 | 作成日時：2021年5月8日 20時
