第二章／ランチタイムイズレイニー ページ40
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あの日も雨が降っていた。
明け方に降り出した雨はギリギリ雪にならずに街に飽きることなく降り注いでいて、太陽を遮った分厚い雲のせいで電気をつけていたって部屋の中は薄暗かった。
気圧のせいか頭も痛くて。
聞こえる言葉なんか全部がネガティブなものに聞こえた。
「お前にとって俺は一番大事な相手じゃないってことだろ……っ」
吐き捨てられるように告げられた言葉は裏切られたとでも言いたげな本心が込められているように聞こえてならなくて、鋭いナイフじゃなくて割れたギザギザのガラスの破片のような鈍痛が胸にじわじわと広がった。
彼が叩いた机が響かせた大きな音がまだ空気を震わせているような気さえする。
「……そうじゃない……そうじゃないよ………っ」
力なく首を横に振った。
だけどこの時の私に複雑な心を上手く伝えるだけの力はなくて。
立ち上がった勢いに負けて床に転がった椅子を足で退かした彼は「もういい」と小さく、けれどよく響く低い声で呟いた。
「俺たち一緒になんない方がいいんだよ。そうだろ？A」
切れ長で大きな目が、目力の強いガラスのような瞳が、暗い雨空の色を映して私を見下ろしていた。
呼ばれた名前に今まで見たいな温かみはない。
寒色のLEDライトは彼の大きな瞳に影を作っているだけで私たちの何を照らしてくれることもなかった。
「……じゃあな。もう、止めだ」
彼の指が右手の薬指から鉛色に光るリングを抜き去る。
「勝手にしろ……俺も勝手にする」
勢いよく彼が投げつけた指輪がごみ箱の底にぶつかってガンと鈍い音を立てた。
どこか遠くで雷の音が聞こえている。
誰も、全部を手にすることなんてできない。
誰かを選ぶということは、誰かを捨てるということと同義であることに私たちはみんな目を瞑って生きている。
息を一つするたびに何かを捨てて、一歩地面を踏みしめるたびに何かを選んでいる。
「…………潤」
震える唇で呼んだ名前は誰にも届かない。
近くなってくる雷がさらに雨脚を強くしている。
飛び出していった彼が雨にぬれなければいいけれど。
そう考える心を捨ててしまったわけじゃないのに。
私が選ばなかった彼にはその心すら伝わらない。
選ぶということは、それ以外を捨てたことになるから。
ぴしゃり、雷の音が窓を揺らした。
私は暖房の付いた温かいはずの部屋の中で、右手に嵌った冷え切った鉛色のリングをいつまでも指でなぞっていた。
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iCHiKA(プロフ) - shiさん» この度もありがとうございます！二人の距離もやっと変わり始める…といったところですので、お楽しみいただけたら嬉しいです。 (2021年2月28日 22時) (
レス) id: ca4476f6fd (このIDを非表示/違反報告)
shi(プロフ) - こんばんは！！翔さん何かありましたね( .. )この後の主人公と翔さんの行方楽しみにしています！！ (2021年2月26日 22時) (レス) id: 4f699932a6 (このIDを非表示/違反報告)
iCHiKA(プロフ) - shiさん» コメントありがとうございます！驚いてもらえたなら嬉しいです。雨にぬれたSさん想像しながらぜひ続き読んでくださいませ。楽しんでもらえたら光栄です。 (2021年2月24日 20時) (レス) id: ca4476f6fd (このIDを非表示/違反報告)
shi(プロフ) - おはようございます！！まさかの帰ってきたにドキドキです！！次回も楽しみにしています(^^) (2021年2月23日 8時) (レス) id: 4f699932a6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：iCHiKA
| 作成日時：2021年1月24日 14時
