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16.運が悪い ページ16

(書いててちょっと怖いかもと感じました。苦手な方はブラウザバックをお勧めします)



コツ、コツ、コツ……



気味の悪いほど静かな道に、私の足音だけが響く。

歌でも歌って歩きたいが、そんな心の余裕はなかった。



頼むから、何事無く帰らせてくれ。
一体私が何をしたというのだ。

神に願うような気持ちで歩き続ける。



でも、やっぱり、



「…あは、は……ふふ……ねぇ、A?」

「っ?!!」



神様なんていないらしい。



自分の耳が良いことをこれだけ恨んだことはないだろう。

今一番聞きたくなかった声が、鮮明に私の聴覚を刺激する。



「……っ!!」



その刺激に弾かれるように走り出す。
ここから家まで走ってどのくらいかかるのだろう。

こんなに怖くて泣きたいのに、涙が出ない自分に呆れる。
いつだって呆れるほど私の涙腺は緩むことなくきっちり締まっている。

ただ、今ばかりは泣いて呼吸が乱れることがないから、少しだけ助かる。



「っはぁ……っ!!」



あぁもう、連日の精神的疲労と肉体的疲労がここに来て私の足を引っ張る。
息が続かない。高校生の私ならまだ走れた。



「……っあ゛」



女子大生らしからぬ濁った声が飛び出る。

そんな私はつくづく運が悪い。



「っ痛……っ」



こんな所で、


転んでしまうなんて。



硬くて冷たい地面に手をつき、立ち上がろうとするが、1度座ってしまえば、震えで立つことなんてできっこなかった。
良く漫画やアニメに主人公はこういう時に何故か最後の力を振り絞っているけど、私にそんな力があるはずもなく。

ただ座ることしかできなかった。



コツ、コツ、コツ……



だから、ストーカー野郎の足音が近づいてきても、



「……ううん……僕、悲しい……っA、何で逃げるの……?」



意味の分からない言葉で話しかけられても、



「……」



カヒュッ……と息を吸って、終わり。



「僕はさ、こぉんなにAを愛してるのに、」

「……」



怖い。



「なのに君は……っ!!」

「……」



嫌だ。



「っ他の男に!!色目使うんだあ゛ぁぁっ?!!」

「……っ」



痛い。



気持ち悪く息を切らす「それ」に思い切り頬を殴られる。
口の端が切れた。血の味がする。



抵抗もできず、涙も声も出ず、ただされるがままにもう2発殴られた。

痛い、痛い。



そして目の前の「それ」が遂には私の服にまで手をかけ始めた。



もう目を閉じてしまおう。

そう思った。

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作者名:tokumei | 作成日時:2023年8月21日 13時

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