子羊たちの交差点【五い】

30話,そして君はサナギになった ページ30

「……あ、A。いいな、その髪型」
「でしょでしょ?」

ダンス教室の帰りに偶然、髪を切ったAに会った。

……久々知おすすめの美容院に行くと聞いた時は驚いたけど、なんだ、普通の服装じゃないか。
いつも通り着飾らないAのファッションになんとなく安心する。


雷蔵と出会ってライブに行くことになってからというもの、Aはなんだから変わりつつある。
変わった……というよりか、昔を思わせるような熱さを感じるようになった。


俺はどんなAだって好きだけど、欲を言うならやっぱりあの頃のAが一等輝いて見えた。


Aは、努力の天才だ。

彼女を知る人は、誰しも一度は彼女の一生懸命さに憧れたことがあると思う。
いつからか形は変わってしまったが、元はといえば俺もその一人だったんだ。


いつも一生懸命でがむしゃらなAが好きだった。
けど、俺はAが変わってもAが好きであり続けた。


恋と執着の区別はなんなんだろう。
俺はAに恋をしてるって言えるのかすら、自信がないままで。


俺はまだ見ぬ王子さまのために頑張るAなんか、見たくなかったんだ。
もし頑張った結果王子さまが見つかったら、Aが俺から離れていくのは目に見えて分かっている。

だから俺は、Aに何も言えなかった。

あの少年――兵助がきっと何かを言ったんだ。
きっかけのあの少年だからこそ言えたことで、俺には言えなくて、あの少年だからこそAも受け入れたんだ。


「ふふ……」
「? どしたの、尾浜」

俺はやっぱり、Aのことが好きだ。
どこか陰鬱さを孕むような顔よりも、底抜けに明るいくらいの顔が良く似合う。


最初から、前みたいに戻って欲しいっていえば良かったのかな。
そんな言葉がよぎったけれど、Aが帰ってきたこの事実に変わりはない。

「……おかえり、A」

一拍間を開け、なにそれ、と笑うAに、俺の中で何かが始まりそうな予感がした。

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