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休憩、と云ってもこの女が俺と会話をする筈も無い。
そう思っていた。
「私、貴方に訊きたい事があるのだけど。」
「…何だよ。」
「如何して、態とミスした書類を提出するの。」
「……。」
ドクンと大きく心臓が跳ねた。
この女は自分に向けられる好意には鈍感でも、その他は意外と鋭かったようだ。
これは好機だ。
自分にいい聞かせて奮い立たせる。
「そ、れは…、」
お前に会いたいから、話したいから、好きだから。
云ってしまえと囁く俺がいる。
「俺は、お前を…、」
「私を?」
「っ…、困らせてやろうと思っただけだっ!」
「あらそう。善かったわね、すっごく困ってる。」
再びデスクに伏せる。
無理だ無理。振られるのが分かってる未来を想像すると余計に云えない。
もし云ったとして、振られても俺達は今までと同じような関係で居られるのか。
「なあ。」
「何。」
「もし身近な奴に告白されて断っても、お前はそいつと普段通りに接する事が出来るか?」
「…何その質問。」
「…なんとなく。」
コップに入った珈琲を飲み切ったAはひと呼吸置いて遠くを見つめる。
「私には無理。私はそんな器用な人間じゃない。」
少し伏せられた目。
寂しそうな表情をしている此奴は今、俺の大嫌いな男を思い出しているんだろう。
「…だよな。」
俺は絶対に云わない。
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作者名:汎用うさぎ | 作成日時:2024年2月5日 20時