95話 ページ46
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太宰と外に出ると手を出され、私がその手をじっと見ていたら太宰の方から手を繋がれた。
「最近、いい処を見つけたのだよ。Aちゃんもきっと気に入ると思うよ。」
「…そう。」
横目で横を通りすぎて行く車を眺めた。
横にはいつもと違う太宰といつもと変わらない太宰。
まず、太宰はお昼に行こうと誘ってくれた日はお昼頃になるといつも私のデスク周りをうろうろする。
もう終わった?今終わった?等とうるさい程に。
それが今日は無くてずっと自分のデスクで寝ていた。
目の前に国木田っちが居た時ですら。
そして何より、太宰は女を車道側には歩かせない。
「ねえ、太宰。」
「何だい?」
「あの女性凄く綺麗ね。」
「…Aちゃんの方が綺麗だと思うよ?」
極めつけはこれなのだ。
綺麗な女性に心中を申し込みに行かない彼にとても不自然さを感じた。
「どうして急にそのような事を云うんだい?」
「…そう思ったから。」
「何か隠してるね?」
「何も隠してなんか無いわ。」
「私達の仲じゃないか。恋人の私には何でも話して貰いたい。」
矢張り、こいつは太宰じゃない。
咄嗟に後ろに飛び退いてナイフを構えた。
「貴方は誰。」
「私は太宰だよ?」
「嘘ね。」
「嘘じゃないさ。」
「私達は恋人じゃないのよ。」
そう答えると、成る程ね…と呟いた後に太宰の顔で、声で、でももう遅いわと悲しい笑みを浮かべた。
その瞬間、後ろから口元に当てられる布から香る匂いにゆっくりと目を閉じた。
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作者名:汎用うさぎ | 作成日時:2023年4月25日 22時