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柚葉ちゃんが来たときのことはまるで思い出せないぐらいに優しく扉をノックする音だった。

覗き穴から相手を見て、それから扉を開いた。


『なんの用、でしょう』

「風邪ひいたんだって?」

『なんで、知ってるんですか』


本当は扉を開けたくなかった。

でも、きっとこの人からは逃れられないから。


「家で柚葉が話しているのを聞いた、上がらせてもらうぞ。」

『や、やだっ……止めてください!
貴方、昨日私になにしたか分かってるんですか!?!』


力の限り胸板を押したのに彼はビクともしなくて、むしろ私が押し返されてしまった。


大寿「そんな力じゃあ俺は動かねえぞ?」

『風邪なんて引いてないですっ、あなたが……あなたが昨日あんなことするから、』

大寿「風邪は引いていないのか?」

『引いてませんよ。
大体、あなたが朝までその、あんなことするせいで起きたら夕方でっ
それに柚葉ちゃんにホントのこと言えるわけないじゃないですか!!!』

大寿「……それもそうだな。
本当に具合悪い訳じゃねえんだな。」

『身体中が痛いですが、風邪症状はありません。
あと、やっぱり聞きたいこと……あるんですけど、』


さっきからずっと頭の中をグルグルしていたこと、他に聞ける人も相談できる人も私にはいないから。

大寿「何だ?」

『大きい声では言えないので、屈んでください……』

大寿「ん、」

私がそう言うと、彼はそのまま私の顔辺りまで屈んで、私の言葉に耳を傾けた。

『あの、昨日なんであんなことしたんですか……もし、赤ちゃんとかできちゃったら私は一体どうすればいいんですか………』


当人にそれを言えるだけ私の肝は据わっているのかもしれない。
けど、そうでもしないとこの焦りはおさまらないのだ。


大寿「何故かって?」

『……』コクリ

大寿「お前が大層良い女だと思ったからだ。」

『で、でも……』

そういうのってお互いの合意とか、責任とかあるでしょ?まだ授業では習ってないけどそういうのは私にはまだ早くって……


大寿「責任ならいくらでも取ってやるが。」

『は?』

大寿「あぁ、愛してるんだ。」

『いや……は、?』


大寿「父である神を愛するように、自分と同じように隣人を愛する。
それと同じことだ、聖A。」

『……分かんないです』

大寿「ただひとつ確かに言えるのが、聖Aという1人の女性を心から愛している、という事だ。」



『もっと分からないです、私たちつい一昨日に初めて会いましたよね?』


この人の考えることや、やることなすこと。その全てが私の理解の及ばないところにあった。

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作者名:HAL | 作成日時:2023年11月15日 23時

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