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私が昇降口を出た頃には、あたりはすっかり暗くなっていた。
カバンを肩に提げてローファーの踵を鳴らしながら家路を辿ると、家の近くに人影を見つけた。
けれど、それは当然知っている人ではなくて、でも異様な雰囲気を纏った男性だったので少し怖くて小走りでアパートの部屋まで帰った。
つもりだった。
ガシ
『きゃッ、』
「あぁ、やっぱりそうだ、オマエだ……!!!」
『やめて、くださいっ、離して!!』
鍵を差し込んだ瞬間、先ほど見かけた男性に肩を掴まれたのだ。
「あの女は、アイツはどこだよ!!!!」
『やだ、やめてっ、アイツって誰のことなんですかっ』
「とぼけてんじゃねえよ、お前の母親だよ…」
その男性は目の焦点があっておらず、何やら錯乱でもしているのかと思うほどに汗も吹き出ていた。
私の肩を掴む手にはどんどん力が入って、どうすることもできない私はとにかく止めて欲しいと何度も何度も叫んだ。
今は近所迷惑なんてことを気にする余裕なんてまるでなくて、むしろこの声を聞きつけて誰かが助けてくれることを祈っていた。
「お前の母親が俺のこと借金の保証人にしてやがってよぉ……あと一週間で1000万返せなきゃ俺は東京湾の魚のエサになっちまうんだよ…お前本当は知ってんだろアイツの居場所!!!!」
ダン、と大きな音を立てて顔の真横あたりの高さを殴った。
随分とボロい建物だからその音はきっと他の部屋の住人まで響いている。
『ホントに、わたしはなにも知らないっ!!!!
あの人とはもう縁を切ったの、これ以上私とあの人を家族だなんて呼ばないでよ!!!!』
勇気を振り絞って大きな声を出したところで、目の前の男が視界から消え去った。
ホントに、なにも気付かぬまま「ぐぇ、」みたいな声だけ残して目の前から居なくなったの。
慌てて左右を見ると、右の方に飛んで行ったさっきの男性がいた。恐らく気絶している。
『ぇ、?』
そして、その発生源であろう左側にゆっくり顔を向けた。
大寿「困り事か?」
昨日の今日、色々気になってはいたけれどこうして危ないところを助けてくれたみたいだ。
『あ、え……』
大寿「大丈夫か?」
『ありがとう、ございます…』
どうしてここに居るのかを考える余裕もなく、緊張が解けた体は一気に力が抜けてへなへなと家の前に座り込んでしまった。
大寿「家はここか?」
『そう、です。』
大寿「立てるか?」
『ムリ、です……その、腰抜けてしまいました。』
単純に、怖かったんだ。
しかしそんな恐怖を取り払うように彼は口角を上げて、私のことを軽々持ち上げ家の中へと足を踏み入れた。
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作者名:HAL | 作成日時:2023年11月15日 23時