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あの日から私が退院するまで、大寿さんは毎日のように足を運んでくれた。
数ヶ月にのぼった入院生活は、思い返してみれば結構ハードだったんじゃないかと思う。
大寿「荷物は?」
『暇つぶしに読んでいたこの本ぐらいだし、そんなに多くないですよ』
大寿「そうか……持つか?」
『んーん、大丈夫』
「『………』」
病院を背に、どこへ行くのだろうとドキドキしながら並んで歩いた。
いつだったか、2人で並んで歩いた時に歩幅を合わせてくれて、それがとっても幸せだった事を思い出した。
そんな些細な幸せは、普通の人からしたら当たり前のことなんだという。
そういう当たり前を突きつけられたとき、自分が普通じゃなかったってことを分からせられるような気がして、あんまり好きじゃなかった。
大寿「どうかしたのか?」
『なんでも。何か甘いもの食べに行きたいです!』
大寿「甘いもの、クレープなんかはどうだ?
この前三ツ谷に進められた店があるんだが、結構若い人達が並んでいてな。きっと気に入るだろう」
『クレープ、行ってみたいです!!!』
初めて食べるその味に、思わず舌鼓を打った。
大寿「付いてる」
『ん?』
大寿「頬にクリームが付いてる」
『ど、どこですか』
なんか色々乗っているクレープを買ってもらって、私は食べるのに夢中で必死だった。
両手はクレープで塞がっていて、手鏡なんかも持っていない。
流石に恥ずかしいので持っていたクレープを預けようとしたら、彼はその指で私の頬を拭い指についた生クリームを口に含んだ。
その姿や仕草がどうも色っぽくて、様になっていて自分の顔が赤くなっているのを直感した。
その証拠に胸はドキドキが止まらない。
大寿「……大丈夫か?」
『た、大寿さんのせいですからねっ!』
不思議そうな顔をして覗き込んでくる彼を無視して、私は足早に距離を取った。だって赤くなった顔を見られるのなんて慣れていないし恥ずかしいんだもの。
大寿「おい、どこ行くコッチだ。」
『え?そっちは事務所の方向とは逆方向…』
大寿「良いから、着いてこい。」
大人しく彼の後ろを歩く、時折クレープをひと口かじって甘さにとろけそうになる。
大寿「ここだ」
『ここ?おうち、ですね?』
大寿「不動産関係の知り合いに事情を説明したら、格安で貸してくれたんだ。」
『事情…?』
大寿「詳しいことは中で話す、入れ」
そして私は、今自分がどんな状況に置かれているのかを彼の口から聞くことになる。
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作者名:HAL | 作成日時:2023年11月15日 23時