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『………っ、うぅ』
重苦しい奥底に沈んでいた意識が、段々浮かんできて周りの音や鼻をつく匂いに気を取られて目を覚ました。
見慣れない真っ白い天井に、自分が生きていることを示す規則正しい機械音。
「あ、っ……A…?起きたの?」
『ゆずはちゃん、だ。おきたよぉ』
大分眠っていたのだろうか。
当分発声していなかったせいか声はガラガラで、思わず自分で自分の声に笑ってしまいそうになった。
「ごめんね、Aっ、アタシ……アタシAに酷いこと!」
『い、いんだよ。わたしも、ゆずはちゃんにあやまんないと、ってずっとおもってたの』
思うように喋れない、言葉がスラスラ出てこなくて、あの時を思い出したように体が震え出した。
「せ、先生っ、呼んでくる!!」
『う、んっ』
やっぱり、怖いものは怖かった。
大寿さんが私に与え続けた愛はまやかしで、私を傷つけるものだったんだと今になってようやく知った。
もう、遅いんだと直感した。
『私は、』
本当に、誰かに愛されていたのだろうか。
答えのない問いかけは誰にも出来なくて、ただ時間だけが過ぎていった。
見舞いに来る顔ぶれはいつも同じ、時間や人数も変わることは少ないため、いつしか私のルーティンとなっていた。
「こんにちは」
『三ツ谷くん、こんにちは』
「手、大丈夫?」
『うん、大丈夫だよ。
粉砕骨折になってるけど、1年もすれば元通りに動くだろうって。
今年のコンクールはお預けだね、中学最後だったから楽しみだったけど。三ツ谷くんの作品楽しみにしてる!』
「そっか」
三ツ谷くんはいつも学校が終わったあと、部活のない日に病室を訪ねてきてくれる。
三ツ谷「今日はね、伝えなきゃいけないと思うことがあって。
少し、話す時間取って貰えない?」
『ん?いいよ。何だろ、話って。』
三ツ谷「大寿くんと話したこと、なんだけど」
その名前に、ドキリと心臓が跳ねた。
鼓動がどんどん早くなって、でもそれを悟られないように話を聞いた。
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大寿「話せば長くなるがAの母親はイカれててな。アイツのことを売って、金を稼いでいたんだ。
黒龍として金の回収に回っていた時、アイツの身内に該当者がいた。それがアイツの母親だった。
金を返せねえヤツは誰であろうと容赦しない、あン時もそうだった。
ただ、アイツの母親とAは顔が瓜二つなんだ。
あの顔が傷付いていくことに、不思議と昂った。」
だなんて、聞いちゃいけないような気持ちになった。
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作者名:HAL | 作成日時:2023年11月15日 23時