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「来い!!!」
『い"、たいッ!
おねがいします、髪引っ張るのやめてください、ごめんなさいっ、大寿さん』
「うるせェ!もう二度と口答えできねえようにしてやるッ!!!」
『もう、しないからっ、大寿さんに口答えなんてしません、ごめ……なさい』
頭が抉れて取れるんじゃないかと思っちゃうほどの力で髪を掴まれ、彼の実家にある部屋へと連れていかれる。
そこは兄貴の部屋があるから近付くな、と言われていた場所で足を踏み入れるのは初めてのことだった。
『私は、貴方のことしか見えてないのにっ、どうして分かってくれないの!!!』
大寿「俺のことだけ?フン、違ェだろ。」
『違くない!私は、あの日から私のことを愛してると言ってくれた貴方しか……ッ!?』
大寿「もういい、お前は黙れ。」
『何…や、やだっ!!!お願い、やめて、そんな……!』
大寿「主は、乗り越えられる苦難しか与えない。
俺がまた戻ってくるまで、そこで反省していろ」
ガシャリ、冷たく重たい錠は私のことを縛り付けた。
それは、肉体的にも精神的にも。
『(私、キリスト教徒じゃあないんだけどな)』
今回大寿さんが怒った原因というのは、また三ツ谷くんのことだった。
私から彼に話すことは特になくて、最低限の会話ほどしかしていない。けれど彼は生傷の絶えない私を心配して声を掛けてくれる。
一度、止めて欲しいと拒否の姿勢を取ってみたことがある。
その理由だって、彼は知っている。
それなのに、彼は"俺が助けるから"だとか"俺を頼って"と言って私の意見に耳を傾けてくれることは無かった。
あのね、私の生傷が絶えない理由のひとつが貴方なんだよ、なんて。そんな酷いことは言えなかった。
それを黒龍の人に見られていたとかなんとか、噂が噂を呼び、かなり装飾された話が大寿さんの耳に入ったと聞いた。
何度か、私と大寿さんの間で話が合わないことがあったような、そんな気がする。
きっとそれはお互いに勘違いをしてすれ違っているんだろう。
三ツ谷くんと私の間に、疚しいものも特別な感情もかけらもないのに、大寿さんはそれを理解して、受け入れてくれない。
『………』
その日から、柴家で起こる色々も耳に入ってくることになって、心があったかい気持ちと辛い気持ちに溢れた。
何が楽しくて、愛する人の家で大切な友人やその兄弟の悲鳴を聞かなくちゃいけないんだろう。
でも、それが彼の愛だと言うから、愛してもらう私はそれに従うだけなのだ。
と、そう思っていた。
あの日までは。
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作者名:HAL | 作成日時:2023年11月15日 23時