検索窓
今日:21 hit、昨日:31 hit、合計:43,951 hit

33 ページ34

『………ん、ぅ』

「起きたか?」

『っ、お、おき、ました……』

「怖がらせたな、悪かった。
大丈夫だ、俺は今もAのことを心から愛している。」

『愛してても、あんなことするんですか』

「愛しているからこそ、そうするんだ。」


"愛"が何かを知らない私は、それを信じるしかなかった。

それに少女漫画やテレビドラマのような娯楽とも縁遠い人生、何が本物で何が偽物かも分からない。自分が心を許している相手がそういうのならば、それが愛というものなのだろうと信じきるには十分だった。


『私こそ、大寿さんに誤解させるようなことしてごめんなさい』

「あぁ、痛かったよな。身体は大丈夫か?」


薄らとした意識の中で聞こえていた、誰かの呟く声はこの人の懺悔だったのだと気付くのに、そんなに時間はかからなかった。

『痛いです、けど、大丈夫。』

ただ、それが愛だと疑わなかったせいで、また歯車は悪い方向に回り出した。

大寿さんと過ごしていく中でひとつひとつ減って行ったガーゼや絆創膏は、またひとつずつ増えて行った。


それに、彼から愛を受け取ると打撲痕も出来てしまう。
そのためガーゼや絆創膏だけではカバーしきれず、湿布や包帯なんかも使うことになった。

大寿さんは何かと理由を付けて、私に愛を教え込む。


「今日もまた、随分と楽しんだみてえだな」


『今日は、私のせいじゃ……』

「憎むんならテメェに手を出してきた野郎を憎むんだな」

『私は、直ぐに断りましたっ、ぎゅうぎゅうの満員電車だったし、それに手が当たっただけかも知れないじゃないですか…ッ!』

「言い訳をするな。」


私は、一生こんな感じで生きてくのかな、って思った。

大寿さんから愛を貰って、身体に染み込ませて、治りかけの傷から血が出てきた頃に、興奮を抑えきれない表情をした彼に組み敷かれる。


もしかしたら、大寿さんもボロボロになった表情が好きな、そういうタチの人なのかもしれない。



『ごめん、なさい……もう、しない、から』

この日から、満員の電車を使って出かけることは無くなった。

バスにも乗ることが減って、黒龍の人に行って送迎をしてもらったりした。


スカートを折ることはなくなって、元々少なかった男友達もゼロになった。髪の毛は下の方でひとつに結ぶだけ。

部活には行くけれど、合同部活には適当な理由を付けて顔を出さないようにしている。




柚葉ちゃんは、以前と比べて私の前で笑わなくなってしまった。

34→←32



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (122 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
198人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:HAL | 作成日時:2023年11月15日 23時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。