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『………ん、ぅ』
「起きたか?」
『っ、お、おき、ました……』
「怖がらせたな、悪かった。
大丈夫だ、俺は今もAのことを心から愛している。」
『愛してても、あんなことするんですか』
「愛しているからこそ、そうするんだ。」
"愛"が何かを知らない私は、それを信じるしかなかった。
それに少女漫画やテレビドラマのような娯楽とも縁遠い人生、何が本物で何が偽物かも分からない。自分が心を許している相手がそういうのならば、それが愛というものなのだろうと信じきるには十分だった。
『私こそ、大寿さんに誤解させるようなことしてごめんなさい』
「あぁ、痛かったよな。身体は大丈夫か?」
薄らとした意識の中で聞こえていた、誰かの呟く声はこの人の懺悔だったのだと気付くのに、そんなに時間はかからなかった。
『痛いです、けど、大丈夫。』
ただ、それが愛だと疑わなかったせいで、また歯車は悪い方向に回り出した。
大寿さんと過ごしていく中でひとつひとつ減って行ったガーゼや絆創膏は、またひとつずつ増えて行った。
それに、彼から愛を受け取ると打撲痕も出来てしまう。
そのためガーゼや絆創膏だけではカバーしきれず、湿布や包帯なんかも使うことになった。
大寿さんは何かと理由を付けて、私に愛を教え込む。
「今日もまた、随分と楽しんだみてえだな」
『今日は、私のせいじゃ……』
「憎むんならテメェに手を出してきた野郎を憎むんだな」
『私は、直ぐに断りましたっ、ぎゅうぎゅうの満員電車だったし、それに手が当たっただけかも知れないじゃないですか…ッ!』
「言い訳をするな。」
私は、一生こんな感じで生きてくのかな、って思った。
大寿さんから愛を貰って、身体に染み込ませて、治りかけの傷から血が出てきた頃に、興奮を抑えきれない表情をした彼に組み敷かれる。
もしかしたら、大寿さんもボロボロになった表情が好きな、そういうタチの人なのかもしれない。
『ごめん、なさい……もう、しない、から』
この日から、満員の電車を使って出かけることは無くなった。
バスにも乗ることが減って、黒龍の人に行って送迎をしてもらったりした。
スカートを折ることはなくなって、元々少なかった男友達もゼロになった。髪の毛は下の方でひとつに結ぶだけ。
部活には行くけれど、合同部活には適当な理由を付けて顔を出さないようにしている。
柚葉ちゃんは、以前と比べて私の前で笑わなくなってしまった。
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作者名:HAL | 作成日時:2023年11月15日 23時