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冬休みも終わって、また学校が始まった。
変わらず私はあの"事務所"と呼ばれる場所で大寿さんと共に生活をしている。
あれから、幸せだと思えることが増えた。
彼は思っていたよりしっかりと愛情表現をするタイプらしくって、すぐ頭を撫でたり、愛していると言ってくれる。
普通の学校生活を送り、家に帰ったら大好きな人がいる。
そんな素敵な当たり前を私が手にできるとは思っていなくて、時折凄く嬉しくなって涙が落ちそうになるときだってある。
『大寿さん、卒業おめでとうございます!』
「あぁ。」
そんな彼は、今年の三月で中学を卒業して四月からは高校生になる。
私も年齢が上がると共に学年があがって、また新たな一年が始まる。
その頃には、自分がかつて手にかけた男のことや母親のことが頭の中にずっといる状態ではなくなっていた。
心身ともに、健康だった。
年度が新しくなり、私の学校にいた部活の顧問が違う中学へと異動した。しかし何の偶然か異動先の中学というのが三ツ谷くんが通っているという渋谷第二中学校。
それが大きな理由となって私の中学と渋谷第二中学との被服制作を行う部活動の交流が盛んになった。
部長がそれぞれ私と三ツ谷くんになった、というのも大きいだろう。
『そしたら、次の合同部活動は二週間後の水曜日で……いい?』
三ツ谷「あぁ、オッケー」
『場所はどっちでやろうか、ウチ来る?』
三ツ谷「んー、たまには良いかもな。
前回はウチだったし、次はそっちでやろ」
『了解』
スケジュール帳に予定を入れて、お互いの顧問に連絡するように確認をした。
そんなやり取りが何ヶ月か続いて、コンクールに提出する作品の追い込みの時期になった。
目にクマが出来ていると言われて自分が何日まともな生活を送っていないのかを数えたり、たまに三ツ谷くんの家にお邪魔してお互いに眠らないよう見張りながら作業をしたり、ということが何度かあった。
上手く回らない頭で朝まで作業をして、そのまま荷物を持って学校へ向かう。
柚葉ちゃんや八戒くんには良くやるな、と呆れられるけれど、三ツ谷くんがいいものを作るせいで、私も手を抜けないのだ。
それを言うと三ツ谷くんはお互い様だな、なんて眉を下げて笑う。
そしてまた三ツ谷家で朝まで作業をして、翌日提出を終えたその日。
公園で彼と一緒に次回の合同部活の話をしていたときに、どこからともなく現れた大寿さんに腕を引かれた。
「来い。」
その表情は鬼のように冷たく、今まで過ごしてきた中でも特に低い声、更には冷たい視線だった。
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作者名:HAL | 作成日時:2023年11月15日 23時