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*
ゴーン
画面の向こうから、除夜の鐘を鳴らす音が聞こえた。
『もう今年が終わっちゃいますね、大寿さん』
「だな」
『明日は、出かけてきますね』
「初詣か?」
『そうです、柚葉ちゃんと』
「そうか」
柚葉ちゃんと会うのは、あれから3回目。
あの日から私の体に貼られていた絆創膏やガーゼは一つずつ無くなっていった。それも全部、大寿さんのおかげ。
けど、そのことは柚葉ちゃんにも、三ツ谷くんにも言っていない。だって説明しようとしたら私がした事まで言わなきゃいけないから。
「気を付けろよ」
『はい!』
今の私と大寿さんの関係といえば、恋人同士と言うのが1番合うだろうか。
特に告白したされたなんてイベントはなかったけれど、同じ部屋で衣食住を共にしているし、スキンシップの一環として口付けを交わすことも、そこから先に進むこともある。
言葉で表したら私達は一体何になるのかは怖くて彼には聞けていないけれど、私はそうだったらいいなと思ってる。
*
柚葉「おはよ、やっぱり着物似合ってるね」
『柚葉ちゃんこそ。それに、八戒くんも。
あけましておめでとうございます!』
柚葉「あけましておめでとう、早速お参り行こうか」
下駄をカラコロと鳴らしながら、人混みをはぐれないように進んでいく。
今日は途中ではぐれたとしても、群衆の中でも頭1つ抜け出ている八戒くんがいるからきっと大丈夫だろう。
柚葉「A、いーことあった?」
『ん?そぉ?』
屋台のいか焼きを口に入れようとしたとき、柚葉ちゃんがいつもより優しい顔をしてそんな事を呟いた。
柚葉「だって美味しそうに食べてンだもん、ソレ」
『えぇ?美味しいんだよこれ!柚葉ちゃんも食べる?』
柚葉「じゃあこっちのカステラと交換ね!」
私の怪我が減ったこと、それに伴って笑顔が増えたこと、彼女はそれがとても嬉しかったのだそう。
けれど、その理由が彼女の嫌っている長兄のお陰だということは言わないでおいた。
『あ、そーだ柚葉ちゃん。宿題おわった?』
柚葉「もう少しで終わる、英作文の日記が残っててさ」
『実は私もまだそれ残ってるんだよね、良かったら一緒にやらない?』
柚葉「いーね、やろ!」
私の過ごしてきた毎日が、なんだか元に戻って来てくれたような気がした。
色々ありながらも、柚葉ちゃん達に大寿さんとのことは隠せているし、大寿さんからそれを柚葉ちゃん達に言うこともなかったからだ。
ただ、そんな安寧な日々もたったひとつのほつれから突然崩れ落ちてしまうのだった。
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作者名:HAL | 作成日時:2023年11月15日 23時