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「入るぞ。」
『はい、鍵開けます…』
さっきの光景が頭に過ぎって、思わず鍵穴に鍵をさす手が震えた。ただ、彼はそんな私を急かすことはなかった。
ガチャリと玄関を開けて、一歩家の中に入ったらもう見える位置に"ソレ"は転がっていた。
「コイツは、誰なんだ。」
家の扉を閉めたあと、大寿さんが不思議そうに聞いてきた。
『私の母親が元々相手をしてた客、って言ってて、合鍵を買ったと言ってました。』
「以前から姿を現すことがあったのか?」
『……前も、ありましたけど、その時は寝ていた時に襲われてて、どうにもできなくて、』
「そうか、分かった。お前はとりあえず着替えて来い。」
代わりに処理をする、と真面目な顔をして携帯電話を弄ってメールを打っていた。
私は言われた通りにバスタオルで水気をとり、乾いた服に着替えた。
「寒くねえか」
『大丈夫です。』
「じゃあ出るぞ、ここには最低一週間は立ち入らない。良いな。」
『……分かりました』
どこへ行くのだろうと、ヒヤヒヤしながら着いていった。
彼の一歩は大きくて私は小走りにならないと追いつかない。
私もこの年齢にしたら長身な方だけれど、大寿さんはそんな私よりも遥かに身長が高くその分足も長い。
軽く息を切らしながら精一杯の大股で歩いていると、私の様子に気がついたのか彼は少し歩幅を狭めてゆっくり歩いてくれた。
『………あの、どこへ』
「適当に生活できる場所を探す。」
『ありがとうございます』
「もうすぐ着くが、ビビるなよ。」
またもや楽しそうに言う彼の姿に、なんとなく心は落ち着いていった。
ビビるなとは、一体なんのことだろうと想像を膨らませてみたけれど思いついたものは全て外れていた。
『この人たちって、いましたよね。その、ウチの前に…』
「あぁ、気にするな。」
『はい』
とは言っても、気にならない訳がなく圧倒的な数と威圧感に萎縮してしまう。
「シャワーでも浴びてこい……おい九井、案内してやれ」
大寿さんはなんでもないようにそんなことを言ったとき、ある事を思い出した。
それは、ふわりと香ったシトラスミントの香りのせいだった。
九井「どんな客かと思えば、オマエこの前の。」
『ひ、ッ?!』
九井「安心しろよ、今日はナイフ出したりしねえから」
九井と呼ばれたこの刈り上げの彼は、あの時に私の首元にナイフを当てて来た人だった。
思い出して鳥肌が立つ、思わず首元を抑えてしまうほどだ。
ただ本当に何かをされることはなくて、綺麗なシャワールームに案内された。
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作者名:HAL | 作成日時:2023年11月15日 23時