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『ふぅ、怖くない怖くない……大丈夫。』

家のノブに手をかけていそいそ家の中に入って、即扉と鍵を締める。最近は鍵を二重にかけて対策をしている。

スーパーで購入してきたお惣菜を皿に移すことなく、お米と一緒にかき込んだ。急いで風呂に入って、また鍵が掛かっている事を確認して、布団に潜り込んだ。

二重に鍵を付けたから、きっと母親の雇った客が来ても大丈夫だから、と自分に言い聞かせて頭までもぐる。


今度提出しないといけないもののことを考えていたら、だんだんウトウトしてきて眠たくなって、起きたらどうなるかを考えもせずに眠りについた。




ガチャ

すっかり辺りは暗くなった、夜21時過ぎのことだ。
玄関の鍵が開くような音が聞こえて、なんとなくそれにつられて目が覚めた。


『ん、ぅ……?』

窓から差し込む月明かりに、影が見えたような気がした。



「ひ、ヒドイじゃないか、せっかくお金を払って君のことを買ってるのに、君はどうしてボクから逃げようとするんだよ」


一気に目が覚めた。


『な、何でここに、鍵かけてたのに…!』

ソイツは母のいう客のうちの1人で、元々母親が相手をしていたような記憶がある。ウチに帰ってしまった時にいた相手もこの男だったはずだ。

「き、キミのお母さんから買ったんだよ?」

スっと鍵を取り出して、私に見せつけるようにした。



『警察に、通報します……不法侵入ですしそれに、私まだ未成年ですから。』

精一杯の強がりで出た言葉がこれだ。
けれど私の言った警察、という単語に男は焦りを見せた。


怒りたいのはこっちだというのに「雨の中来てやったんだ」とか「対価を払っているのだからそれに見合った奉仕があるのは当たり前だ」とか、訳の分からないことばかりで、終いにはまた私のことを組み敷こうとしてきたのだ。


『アンタは、許さないっ……!』


背中と頭を床に打ち付け、狭まる視界に焦りと恐怖を感じながらも私は手探りでこの状況を打開する方法を探していた。

そして、見つけたのだ。



ガン !!!!


皮肉にも、それは母親が気に入って使っていたガラスの灰皿だった。

そして力の限り頭を殴打したことによって生じた隙を逃さないようにして、思い切り体を押した。


男はよろめくようにして台所のシンクの角に頭を打った。



呻き声を上げながら座り込み、そしてだらり床に倒れてそのまま動かなくなった。

死にたくなるほどに辛い、合意のない暴力を受けてしまう所だった。不思議と頭はクリアだった。




けれど、外から聞こえる雨の音で自分がしてしまったことの重大さを認識した。

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作者名:HAL | 作成日時:2023年11月15日 23時

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