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「A、今日ウチ来るでしょ?」
『ほ、ほんとに行ってもいいの?』
柚葉ちゃんは、誰とでも仲が良かったように思う。
人当たりが良くて明るくて美人で、それでいて真っ直ぐな心を持った強い女の子だった。
そして、約束をしていた通り柚葉ちゃんの家にお邪魔した。
『あ、柚葉ちゃんのお家大きいんだね……ウチとも結構近いけど、ご近所にこんな大きなお家があるの知らなかったや…!』
柚葉「まぁ、こんな広い家にほとんど2人で暮らしてるようなモンだからさ。
今日みたいに誰か訪ねてきてくれるのが嬉しんだよね」
はにかむような笑顔が大好きだった。
『2人?柚葉ちゃんと、親御さん…?』
けど、家族の話をするときは決まって辛そうに、難しそうに話すのが印象的だった。
柚葉「ウチね、お母さんが居なくて、お父さんも仕事ばっかで帰ってこなくてさ。
兄貴も一応いるんだけど、その兄貴もあんまり家には帰ってこないんだ。だから弟の八戒とほぼ二人暮らしなの。」
だから私も、言ったんだ。
『実は私もね、お父さんとお母さんは…もういないんだ。』
だってさ、柚葉ちゃんだけ辛い思い出を話すのってちょっと不公平だと思ったから。
『私のこと産んだ女の人は酷い人でさ、他所に恋人が何人もいて、お父さんはそのうちの一人に殺されちゃったの』
期末テストの勉強をしようだなんて言って家にお邪魔させて貰っているのに、何だか不思議な気持ちで気が付けば昔の嫌な思い出をスラスラ話していた。
柚葉「それならアタシたち、ちょっぴり似てるね!」
『ふふ、そうかも!』
そこからは打って変わって楽しい話をしていた。
弟の八戒くんは今日は出かけていて、顔を合わせることは無さそうだ。挨拶でもって思ったけれどまた別の機会になるらしい。
しかし、話に華を咲かせていると不意にリビングに通じる廊下の扉が開く音がした。
柚葉「っ、あ…っ、兄貴」
「柚葉、ソイツは?」
これが、柚葉ちゃんのお兄さんなんだという。
『あ、ごめんなさいっ!
私、柚葉ちゃんの友人で名前は聖Aと言います!
お兄さん、なんですよね…?いつもお世話になってます』
柚葉ちゃんと兄妹と言われても何だかピンと来ないような大柄な男の人だった。
「ひじり……漢字はどう書くんだ?」
『えっと、聖書の聖、です!
分かりますか?新約聖書とか旧約聖書の聖書なんですけど…』
「あぁ、分かる。そうか。ゆっくりしていくといい。」
落ち着いた雰囲気の彼は、そうして優しい瞳のまんま入ってきたところとは別の扉から出ていった。
それが彼との、柴大寿との出会いだった。
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作者名:HAL | 作成日時:2023年11月15日 23時