ヒツジと狼 #tokyo-revengers (ページ23)

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ヒツジと狼㉑ページ23

アスファルトの上を影をつくって歩く

「レポートってまだあったっけ」

「今月末に提出の分、あと再来週までのやつもあるぞ」

「…え？」

「え？じゃねぇよ」

「竜胆くん終わった？」

「あー…いや、まだだから一緒にやるか」

「本当は？」

「…終わってる。でも手伝う」

「ありがたいけど申し訳ないよ」

「俺がしてぇんだからいいんだよ」

少し前の自分なら、今頃何をしていたんだろう

大学に行って、春千夜がきて
バイトに行って、帰ってご飯を食べて
お風呂に入って課題をして、眠って

また、同じ明日を迎えていた。

こうして竜胆くんと並んで歩くことも
蘭ちゃんのバイクの後ろに乗ることも

もしかしたら、春千夜が入院することもなかったのかな

「また泣きそうになってんぞ。せっかく目ェ冷やしたのに」

「…よくあることなの？」

「ん？」

もう泣きたくないって思うくらいには、たくさん泣いたのに
それでもまだ、ゆらゆらと地面が揺れて見える

「夜道歩いてたら大勢に襲われて、鉄パイプで殴られるって、よくあることなの？」

「…ありえなくはねぇよ。喧嘩に強くなればそれだけ恨みも買うことだってある」

「…」

「三途に何も聞いてねぇの、アイツのチームについて」

「…うん」

「…そう。…ヤワなチームではねぇ。だからそこに個人で勝とうとするバカも多分いねぇ。だから一人の時を狙った可能性はある」

「…じゃあ、『A』」

「…俺は分かるよ、三途の気持ち。別に仲間意識とかそんなんじゃねぇけど」

顔を覗き込む竜胆くんが、何度目かの涙をぬぐう。

ふ、と困ったように笑って
すり、と目じりを親指で撫でられる。

「自分のことで泣いて、怒って、心配してくれる大事な女の子が近くにいてさ」

「…」

「嬉しいけど、大事だけど戸惑う。自分がいる世界との差に」

思い出すのは、春千夜の血濡れの姿

「自分がいる世界に大事な子を巻き込んだらって、考える。巻き込んで、今までしなかったような怪我して、生活が変わって夢とかしたかったことぜんぶ叶えられなくなるかもしれないって」

「…」

「…嫌だな、って思うし、すげぇ怖い。大事だから」

「…大事だから」

「うん。だから何も知らないままで、違う世界を生きてくれたらな、って思う気持ちも分かる」

「…うん」

「…でも俺は、全部知ったうえで一緒にいてほしいとも思う」

ずりぃ？って、竜胆くんは笑った。