ヒツジと狼㉒ ページ24
怖くないって、そう思っていたのは
そう、思えていたのは
春千夜や竜胆くん、蘭ちゃんが私をそう思わせてくれていたからだ。
それに気づいた途端、もう駄目だった。
バカになった涙腺が壊れて、私はまた子どもみたいに泣いた。
「あーあー」
「ぅ、っ…」
「いつも凛としてると思ってたAがこんな泣き虫だったとはな〜」
「…」
「弱いとこ見せてくれんの、嬉しいわ」
へらり、と笑って
もうしょうがねぇな、って着ていたシャツを私の顔に押し当てる竜胆くん。
「よごれる」
「その顔で家まで帰るほうが無理じゃね?この際涙でも鼻水でもつけとけ」
「…ぅ〜…」
「唸ってる(笑)」
ずっと春千夜は不器用だと思っていた
でも、優しいことはずっと知っているつもりだった。
20時なのに遅い時間に出歩くな、って言ったり
私に暴走族が何をしているのか、何も教えてくれなかったり
血濡れのまま玄関の前で私を待っていたり
ぜんぶ、私を「大事に」していてくれたからなんだ。
だから私が初めて、黒い服を着た竜胆くんと蘭ちゃんに会ったときも
私にその世界を知らないでいてほしくて、背中に隠したんだ。
「わ、たし…っだめだ…」
「ダメ?何が」
「…知らなかった…っ気づけなかった…」
「それは気付かなくてよかったからだろ。俺が気付かせちまったの、だから俺が悪い」
「わるくないっ…」
「Aはそのままでいいんだよ」
春千夜の声と、重なる
お前はそのままでいい、って言ってくれた声
「な?落ち着いたら帰ろうぜ」
「ん…」
会いたくなった
大事だよって、伝えなきゃって
日が落ちるのが早くなったせいで、伸びていた影はもうなくて
竜胆くんと二人、ゆらゆらおしゃべりをして帰路につく。
「ありがとう。いっぱいお世話になりました」
「おー。ドア閉めたら鍵かけろよ」
「うん。帰り気を付けてね」
「ん」
ポストの中身を手に取って
階段をのぼる、下にはまだ竜胆くんがいて、手を振っていた。
「また明日な」
「うん」
ドアを閉めて、鍵をかけて
手の中にあった郵便物
真っ白な封筒
差出人はなくて
指先で、少しずつ封をきる
嫌な予感はしていた
でも、確信があるわけじゃなかった。
冷えた指先から中身が落ちる
私の、隠し撮りが現像されたいくつもの写真。
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作者名:san | 作成日時:2021年9月30日 1時