ヒツジと狼 #tokyo-revengers (ページ13)

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ヒツジと狼⑪ ページ13

うんともすんとも言わない春千夜に
昨日みた春千夜を重ねて、勝手に怖くなった。

息、してる
心臓も、私のじゃないそれが規則正しく脈打ってる

なんで話してくれないの

春千夜はいつもそうだ
大事な時こそ、何も言ってくれない。

いつも突然現れて、突然いなくなって
そのくせピンチの時は助けてくれて
文句言って、歩幅を合わせることなんて知らなくて
でも、ふとしたとき思い出したように待っていてくれる

「……んでお前が泣いてんだよ」

「…ないてないし」

「…泣きてぇのは俺だっつの…」

がばり、と肩を押されて距離ができた

今日はじめてちゃんと見た彼の顔は
昨日の血がついたままで、私はそこでようやく察する。

あのあと、まっすぐここへ来て私を待っていたことを。

「…不細工なんぞ」

「連絡してくれたってよくない？」

「ケータイ持ってねぇ」

「意味わかんない」

「お前こそすぐケータイ失くすだろうが」

春千夜のゴツゴツした指に、雑に涙をぬぐわれる。

「…シャワー貸せ」

「それ、」

「なに」

「誰の血？」

「知らね」

「…春千夜じゃない？」

「…ちげぇよ」

春千夜がシャワーを浴びている間に、洗濯機に春千夜が着ていた服を入れる。

普通に洗っていいのかな…
分かんないし何かあったら嫌だけどネットに入れて回しちゃえ。

何も食べてないのかな
作って、春千夜が食べなかったら今日のお昼ご飯にしよう

帰りに竜胆くんと一緒に立ち寄ったコンビニで買った食材を広げる。

手を洗って
包丁を取り出して
シャワーの音を聞き流しながら

「…」

綺麗だ、って
誰かの血をつけた春千夜をそう思えるんだ、私は。

「…っ！」

ボーっとしていたのか、包丁が指先に当たって血がにじみ出る

あんなことしょっちゅうしてるのかな
血、出て
もしかしたら、出す側かもしれなくて

春千夜だけじゃない。蘭ちゃんも、竜胆くんだって。

「何してんだよ」

「え」

するりと持ち上げられた手首
血のにじむ指先が、春千代の口内へ導かれるまま

「わ、ばか！」

「うっせーな声でけぇわ」

「そゆことじゃなくて…」

「じゃあなに」

抜き取られた指
握られていた手首を春千代が引いたから、私の背中は春千夜の胸にあたる。