傷だらけ二年生が友人に囲まれるまで (ページ10)

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「アンタは寝てなさい」

ヴィルはテルにそう言ってベッドに座らせた
ほとんど力が入っていないテルは倒れ込むように腰を降ろす
せめて飲み物くらい置いておくかと考えるヴィルの前でテルは無理やり立とうとした

「べんきょう、まだ」
「ちょっと、さっきも言ったでしょう。休みなさい」
「あ、の、ぼく、頭わるいから、がんばる、頑張らないと」

縋るような声でテルが呟く
ヴィルの記憶では彼の頭の良さは平均並み
際立って良い訳では無いがそう悪くもない
体調を悪化させてまで勉強する必要はない
そう言おうとしたヴィルの前でテルは泣きそうな顔で呟く

「りょうちょう、勉強しないと。がんばれます、ねえ」
「落ち着いて。駄目よ、立たないで」
「ぼく、ぼくまだ出来ます、がんばれる、だいじょうぶです」
「しなくて良いの、座りなさい」
「がんばる、頑張ります、もっと、もっとちゃんと」

呂律が怪しい状態が大丈夫とは思えない
ベッドに押し戻したヴィルは「聞きなさい」と告げる

「アンタは早くまともな状態になるように休むのが仕事、良いわね」
「やすむ」
「そう、勉強より休む事。リドルも心配しているわ」
「でもかってに寝たらおこられます」
「誰も怒らないわ、不安ならしばらく傍に居てあげる」

テルの虚ろな視線がうろうろと漂う
何があったのかはトレイからの連絡時に聞いている
揉め事の内容自体はこの学校じゃよく聞く話
柄の悪い生徒が機嫌が悪いので気弱な下級生に絡んだ
そんな説明で終わる程度だ
しかし目の前の包帯男はよほど怖い思いをしたらしい
というより元から抱えていた精神的なものが表面化したという方が正しいか

「アンタが寝て誰が叱るの？」
「とうさまとかあさま」
「…そう。でもここには居ないわ、アンタは眠って良いの」
「ねても、いい」

続けて「はやくなおす」と呟いたテルを無理やりに横にならせる
強引にでも休ませないと治るものも治らない
そう判断したヴィルはブランケットを被せて寝かしつけに入った

「りょうちょう」
「何かしら」
「おこられない、ですか」
「ええ、嘘じゃないわ。もし誰か叱りに来たら追い返してあげる」

その言葉にテルはしばらく困惑していた
しかしゆっくりと目を閉じる
それを見てヴィルは安心した

「そう、良い子ね」

それだけ言ってヴィルは微笑む
まるで小さな子どもを相手にしているみたいだ
そう考えながら近くの椅子に座る
宣言通り、もうしばらく様子を見ていることにした