片思い。〜日々樹渉編〜[4] ページ4
「ひっ日々樹先輩！？」
「ここは部室ですよ。逢瀬ならば他でお願いします。」
英智の言う通りのことがまさか現実になってしまうとは。
その現実は想像以上に面白くもなんともなく、不愉快さだけが残る。
先程まで余裕ぶって致し方ないとか、思っていた自分を叱咤したい。
これ以上この場にいると負の感情で押し潰れそうになりそうだったので、自ら部室を出る選択をした。
「待ってください！」
後方から誰かが名前を呼びながらこちらに向かって来る。
振り向かなくてもわかる。
毎日飽きもせず会いに来る彼女の声なのだから。
「先輩！」
「…どうしましたか？」
やっとのこと追いついた彼女は、息を荒げ制服を握りしめる。
いつもの表情とは打って変わり、今にも泣きそうな面持ちに怯んでしまった。
「私は自分の思いすら伝えさせてもらえないんですか？」
「…。」
このタイミングで言うのか。
しかし、何も言えずただ黙り込んでしまい冷淡な視線を送る。
そんなことも御構い無しに彼女は続けた。
「好きです。」
「でも先程真白くんと抱き合ってたじゃないですか。お似合いですよ。」
嫉妬心。
自分にまさかこんな感情が芽生えるなど思いもしなかった。
悶々とするこの感情をまたぶつけてしまいそうで、一刻も早くこの場を立ち去りたい。
しかし、彼女の口から出た言葉予想だにしないものだった。
「信じたんですね。ならば私の勝ちです！」
「…はい？」
どうやら一向に相手にされない彼女は、英智の入れ知恵で真白くんと一芝居打っていたらしい。
思い返せば抱き合っているのに若干距離があったのだが、気が動転していたせいか違和感を感じなかった。
まさか自分が驚かされる立場になるとは。
そして、それ以上に彼女へ対する気持ちに気付かされる。
「…あんな大根芝居に騙されるとは。」
「ごめんなさい。でも私は先輩一筋です！」
よくもまぁ、ここまで恥じらいもなく感情を露わに出来るもんだ。
だが、これもまた彼女の良さであり、感情を素直に表せることが羨ましくも思う。
「先輩…返事下さいよ…。」
返事をお預けされ、不満そうに典型的な膨れ面を表す彼女もまた愛おしい。
いつからこんなにも彼女に魅了されていたのだろうか。
「わぁっ！綺麗な薔薇。」
同じ驚嘆でもいつもとは違う、嬉々な表情を浮かべ薔薇を受け取る。
「A、好きですよ。この薔薇を捧げましょう。」
「嬉しい…。でも出し過ぎです。」
照れ隠しに出した真紅の薔薇が床一面に広がった。
END
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作者名：とーこ | 作成日時：2018年7月14日 21時
