片思い。〜日々樹渉編〜[1] ページ1
「先輩!今日こそ私の話を真面目に…ってどぅわぁぁぁぁぁ!」
勢いよく扉を開くと、無数の柔らかいなにかが一斉に体を目掛け落下し、驚嘆のあまり女子高生ならぬおっさんのような叫び声が室内に響いた。
しかしこの場所での叫び声は日常茶飯事なので、残念ながら誰も助けにこない。
「Amazing!素晴らしい驚きっぷりです!」
褒めてるのか馬鹿にされているのどちらとも取れる台詞を吐きながら、どこからか現れたのは演劇部の日々樹渉だった。
仕掛け人の正体は言わずとも分かりきって来たのだが、あたかも何事もなかったかのような素振り。
体に当たり、好き放題落下した茶色い何かの一つを拾い上げると、あまりにも可愛らしい熊のぬいぐるみだったせいか余計に腹ただしい。
ぬいぐるみには罪はないのだが。
「転校生さん、私に用事があったのでは?」
会いに来てもこの調子で、今日もまた本題に入らせられないところだった。
来れば必ず何かを仕掛けられているので、ある程度は心構えがあるのだが、いざトラップにかかると見事なくらい思考が吹っ飛ぶ。
ちなみに今日のぬいぐるみ落下はまだ可愛い方だ。
メイクまで完璧に仕上げたゾンビ姿に遭遇した時は叫びながら廊下を走り抜け、副会長に2時間も説教を食らうという二次災害のオプション付き。
「わっ、私日々樹先輩のことが…ってうわぁぁぁぁ!」
パンっと手を叩く音と同時に先程まで床に散乱していた熊が一瞬にして消え去った。
物理的に不可能としか思えないような手品をこの人はやり遂げてしまうので、魔法でも使えるのではないのだろうかと疑いの眼を向ける。
「そう言えば英智に呼ばれているんでした。では!」
長い髪をふわりとなびかせ、颯爽と部屋を出て行ってしまう。
今日も驚かされるだけで目的を達成しなかった。
「A先輩…、ドンマイです。」
「真白くんっ!いつの間に!?」
「いや、俺この部屋にずっといましたけど。」
部室に入った途端、日々樹トラップに驚き中に誰がいたかなど確認する余裕もなかった。
この光景は日常茶飯事なので、見っともない姿を晒すのは慣れっこだ。
申し訳ないと顔の前で手を合わせ謝罪した。
「はぁぁ、なんで告らせてもらえないんだろ…。やっぱ私嫌われてるのかなぁ。」
会いに来てはトラップを仕掛けられ、驚いた姿を観て楽しんで会話が終了。
毎度のことだから、リアクション芸がより一層磨かれてしまう。
プロデューサーではなくリアクション芸人を目指してしまおうか。
13人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:とーこ | 作成日時:2018年7月14日 21時