18.おとなとこども ページ20
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私がまだ一年で、冬の時期だった。
その時はまだ、私は一級呪術師じゃなくて三級。
けれど、まだ一人で任務に行けない私を引率してくれた高専のOBだったある人から、推薦の話を貰っていた。
その人は珍しくも、
腐敗しきった呪術界の中で奇妙なほどに《まっとう》な大人だった。
「Aはなにを生き急いでんのかな?」
不敵な笑い。
つり目で、人像は悪いのに笑うとどこか可愛いと思わせる不思議な魅力。
柔らかい言葉は、
ゆっくりと深く胸に落ちていく。
「ゆっくり強く慣ればいいんだよ。
のびのびと好きなように生きて、
たまに立ち止まって、
来た道を振り返ってみるのもいい。
大人はそれを見守ってるから。
道を間違えてたら、こっそり教えてあげるし、
迷ったと思ったら、気軽に尋ねるんだ」
一人で焦らずに、大人を頼って。
年功序列、完全なる縦社会に生まれた筈なのにその人から溢れる言葉は、そこから逸脱していた。
率先的に任務に同行させてくれて、
フォローを入れながら弱いわたしを呪霊と戦わせてくれた。
戦いにピンチになって名前を呼べばすぐに駆けつけてくれて、「大丈夫?」と手を伸ばしてくれる。
「Aもいつかわかると思うけどね。
呪術師は孤独だよ。
みんなみんな、腹の底に孤独を飼っていて、それを糧にして呪力を作ってるんだ」
その人から、頭を撫でられるのが好きだった。
気まぐれに起こるそれは、くすぐったくてあったかい。
ほのかに香るタバコの匂いは、わたしの前では決して吸う姿を見せない彼の優しさの証だった。
「Aは強くなるよ。
多分俺よりずっとずっと」
「でも、………孤独には慣れたらダメだ。
そこは暗くてさむくて、寂しい場所だから。碧はきっと凍え死んでしまう」
本当に、強い人だった。
同世代の同業者からも信頼されてて、当時のわたしが手も足も出ないような、強い、強い……、、、大人だった。
「A、俺の名前を呼んで」
それが彼の口癖だった。
寂しくなったら。
不安になったら。
怖くなったら。
ピンチになったら。
頼るために、俺の名前を呼んで。
いくら俺がすごくても、言わないとわかんないから。
困ったように笑う、その仕草が好きだった。
そんな大人に、憧れた。
そして、寒い冬の私の昇級試験の日。
彼は私の目の前で死んでいった。
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かるうら(プロフ) - 50話分しかなかったはずなのに、今までにないくらいの重量感で恐れ入りました。なんだか第5章くらいまで読んだ気分です。2章に行って参ります! (2020年8月3日 21時) (レス) id: 2c64977e89 (このIDを非表示/違反報告)
サイコロ - 最の高だ…推しが絡んでる… (2020年3月19日 16時) (レス) id: d3e3d1ba1a (このIDを非表示/違反報告)
さとう - とても面白いです!応援してます! (2020年3月9日 19時) (レス) id: 74e459d58c (このIDを非表示/違反報告)
朱鷺(プロフ) - 吉田さん» いいえ!神様は芥見下々先生です!!!でも、そう思ってくださり嬉しいです (2020年3月6日 22時) (レス) id: b5f5114d16 (このIDを非表示/違反報告)
吉田(プロフ) - 作者様は神でしょうか?( ˘ω˘ ) スヤァ… (2020年3月5日 1時) (レス) id: fb4495920c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:朱鷺 | 作成日時:2020年1月19日 23時