22.おとなとこども ページ24
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ぽつりぽつりと語り出す。
彼らが知らない私の話。
私が、まだ馬鹿みたいな理想を抱いてなかった頃の話だ。
「今日はね、大切な人の命日なの」
感情を込めないように、淡々と口を動かす。
余計な先入観は、抱いて欲しくなかった。
「君たちとまだ出会う前。
……、その人はまだ3級で一人で任務に行けない私をよく連れ出してくれる人だった」
高専のOBってだけで、先生ではない。
ただ、後輩の教育に熱心で機会があれば率先して生徒の背中を押してくれる。そんな人だ。
「一年生の冬の前。
私を一級に推薦してくれたのも彼でね。
一年前の今日。
準一級だった私は、ある任務のためにこれから行く場所に向かっていた。」
続きの話はついてからにしようか。
きっとその方が話がわかりやすいから。
にこりと笑うと、悟に頭を叩かれた。
最近、後輩が優しいのか怖いのか分からなくなってくる。
痛がる私をよそに彼に似合わず難しい顔をして、重々しく口を開いた。
「Aはそいつのことが好きだっのか」
その好きが、何を表しているのか一瞬わからなかった。
一瞬のうちに脳裏にあの人との過去の記憶が蘇る。
古傷をねじ開けるような質問に、
意外にも私は冷静だった。
感情が凍るとはこういうことを言うのだろうか。
「まぁね。
大好きだったよ。
でも私の好きは、尊敬や憧れだ」
私の笑顔に何を思ったのか、
悟はすました顔でふぅんと言った。
しばらくして私たちは目的の駅にたどり着いた。
駅まわりの商店街の酒屋で、適当な日本酒を購入する。勿論未成年だから売れないと言われたが、墓に具えることを伝えると特別にと打ってくれた。
それと一緒に、あの人が愛した銘柄の煙草も買った。
吸っているところは見たことがなかったけれど、常に愛用していたそれの外見と匂いだけは覚えている。
それからタクシーを拾って、目的地に向かった。
「えぇ、お客さんあそこに御用ですか?
悪いことは言いません。
不気味なのであの場所には行かない方がいいと思いやすが……」
「あそこで亡くなった方が知り合いなんです」
「あぁ、、なるほど。
そういえば、もうあれから一年経ちますねぇ」
初老のタクシー運転手に、その山の麓まで送ってもらった。
さぁ、行こうかと二人に声をかける。
一年前、あの人が死に私が一級へと昇格する要因となった山に。
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かるうら(プロフ) - 50話分しかなかったはずなのに、今までにないくらいの重量感で恐れ入りました。なんだか第5章くらいまで読んだ気分です。2章に行って参ります! (2020年8月3日 21時) (レス) id: 2c64977e89 (このIDを非表示/違反報告)
サイコロ - 最の高だ…推しが絡んでる… (2020年3月19日 16時) (レス) id: d3e3d1ba1a (このIDを非表示/違反報告)
さとう - とても面白いです!応援してます! (2020年3月9日 19時) (レス) id: 74e459d58c (このIDを非表示/違反報告)
朱鷺(プロフ) - 吉田さん» いいえ!神様は芥見下々先生です!!!でも、そう思ってくださり嬉しいです (2020年3月6日 22時) (レス) id: b5f5114d16 (このIDを非表示/違反報告)
吉田(プロフ) - 作者様は神でしょうか?( ˘ω˘ ) スヤァ… (2020年3月5日 1時) (レス) id: fb4495920c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:朱鷺 | 作成日時:2020年1月19日 23時