【文スト】百鬼ノ図と隣人【壱】

【いま何時？.肆】 ページ16

_


『あっ、そういえば中原さん！

私のスマホは何処に？』



「俺が持ってる」




中原さんのジャケットの内ポケットから出てきた私のスマホ。
見たところ変わった所はない。



「起きがけに警察に通報されたんじゃぁ堪んねェからな。
預かっといた」


『なッ！？そんなことしませんよ！！』


「嘘だよ。

着信音が五月蝿かったから勝手にきっといた。ひとりで電話に出られて飛び降りられたら、元も子も無いからな」



くすくす笑う中原さんからもらったスマホには、すごい履歴がたまっていた。


軽く引くぐらいには。


パスを解いて開くと、履歴にはほぼ同じ人の名前が並んでいる。

学校の友達と、それと父親。




「そのデュマってヤツがお前の親父か？」


『…………はい』


「そいつからが一番多くてな」



『すみません。ホントいろいろとご迷惑を………、って___________え？』




見間違えではないかと、瞬きを繰り返す。
だって………、え？いや、そんなはず！？



『わ、私、まる２日も寝てたんですか！？』



「ぐっすりとな」



そりゃぁ、履歴が溜まるわけだよ！
ていうか、そのあいだ中原さんのベッドを占領してたの？！



『ホントすみません。２日間もベッドを占領して』


「いや、本部の方にも部屋はあるからいい(睡眠薬入れたの俺だしな)。」




ショックで寝込んでいたと思っているAは知るよしもないだろう。


そんなんだから、気が付かなかった。




数多く残る履歴の中に、一つだけ不在になっていない表示がある事に。



『中原さんのおかげて、気持ちの整理がつきました。

お義父さんにはメールを送っておきます。
今は少し………、まともに話せる気がしないので』



一方的な、言い合いになる自信があった。
黒い感情を抑えられる程、私は自分に厳しくない。



「もう、いいのか？」



『はい。諦めました』




「諦めたのか」




『元々、遅かれ早かれこうなっていましたので』



だから、諦めた。

失望して絶望して、見切りをつけた。
正しい判断かわからないけど、私はそれが楽に思える。



「そうか」



中原さんも、静かに受け止めた。



「なにかあったら俺を頼れ。
ひとりで抱え込むなよ｣


『善処します』



「…………可愛くねェーな。そこは素直に頷いておけよ」



『他人の手の取り方を知っている程、私はできた人間ではないのです』



ぺし。



…………痛い。
なぜに叩かれるし。

_
【いま何時？.肆】

【気まぐれ屋さんな鳥】→←【いま何時？.参】

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す