星に願いを (ページ37)

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桜の蕾ページ37

その日はよく晴れた、最高のピクニック日和だった。

『まだやっぱり寒いねぇ』

「そう、？」

彼女はもう、一言一言話すのにも時間がかかってしまうようになったが、それでも車椅子の上で空を見上げて微笑んだ。

『この辺座ろっかね』

公園のど真ん中の芝生の上にレジャーシートをひいて、Aを車椅子から抱き上げて降ろした。

「桜…まだ咲いてないね…」

『ん？あぁ、まだちょっと寒いからなぁ～、、あと1週間もすれば咲きそうだけど笑』

「…だね……」

正直冬を越せるか分からないと言われていた彼女が、春を目の前にした今になっても、俺の目の前にいてくれるなんて奇跡だと思う。

『よし、俺の弁当食べてくれよ。一生懸命作ったんだぜ？笑』

「ほわ、、美味しそ…」

『ほら、あーん』

「あー、」

付き合ってから結婚して、彼女が病気になるまでは、俺がなかなか素直になれなくて、食べさせ合いっこなんてしてこなかった。

「宏光、優しくなったよね」

『そう？笑全部お前のおかげなんだけど笑』

それから俺たちは大きい桜の木の下の、ベンチに腰掛けた。

『桜、来週また見に来ようよ。ほら、蕾が出てるからもうちょいじゃない？』

俺は桜が見れず少し寂しそうな彼女にそういった。

「ほんとだ…」

「ねぇ、宏光」

『んー？』

「私と出会ってくれてありがとう。私と結婚してくれてありがとう…」

『なんだ急に、照れるやんけ笑』

「いつまでも宏光は宏光のまんまでいてね、？」

『……いるよ、心配すんなって笑』

「ねぇ、ごめん。喉乾いちゃった、」

『あ、そっかそっか。悪い、飲み物忘れてたわ。買ってくる、何がいい？』

「お水でいいかな、」

『待ってて』

「うん、ありがとう」

この日この瞬間、彼女が俺に見せた笑顔はこれが最後だった。

『水買って来たぞ～……A？A…』

ベンチにもたれ掛かったままの彼女の名前を、何度呼んでも目を開けることはなかった。

彼女は満開の桜を見ることなく旅立ってしまった──