[文スト]中島敦には、可愛い双子の妹が居ます:2[中島敦]

67:過去の記憶ほど嫌いなものは無いです ページ32

数分後＿＿＿

Aの息が少しずつ荒くなってきていた。

その理由は、血が足りなくなっているから……
つまり、貧血だ。

元々貧血体質のAにとって、苦痛だった。

『(視界が霞む……ぐるぐる回って気持ち悪い……)』

Aは芥川の傷を見る。

治した傷は、まだ半分もない。

つまり、これまで治した傷よりも多く治さなければいけないのだ。

「………」

芥川は黙っている。

Aが苦しそうなのは見れば分かるが、芥川に出来ることはほとんど無かった。

……唯一出来るのは、血を飲むという協力位だ。

芥川はそれを理解しているが、血を飲むとなると、矢張り抵抗があるようだ。

『(駄目……早く治さないといけないのに、頭が上手く回らない…)』

Aは自分の手首の傷が塞がったのに気付き、爪でもう一度手首を切る。

そして芥川の傷口に持っていこうとするが、その手を芥川に掴まれた。

『……？』

Aは疑問に思って芥川を見る。

芥川はAの手首から流れる血を見て、微かに顔を歪めた。

そして、Aが何かを考えるより早く手首に口付けた。

『！？』

Aは突然の事に頭が付いていかない。

Aは芥川を見る。

芥川は目を閉じ、流れる血を飲んでいた。

不意にAの腕を掴む芥川の力が強くなった。

『っ………！』

その力にAは嫌な過去を思い出した。

思い出したのは、孤児院での過去の記憶だった。

『嫌…！は、離し、て……！』

動く気配の無い芥川を見ながら、Aは叫んだ。

力一杯芥川を振りほどこうとするが、びくともしない。

『ぁくた………芥川さん！』

そうやって叫べば、芥川は漸く手を離した。

Aは恐怖で後ろに下がる。

『こんな……沢山飲まなくたって良いじゃないですか……っ！』

「……貴様が言わなかったのが悪い」

『言わせなかったのは貴方じゃないですか……』

拗ねた子供のようにAは呟いた。

やがて冷静になったのかこう呟いた。

『……もういいです。
傷は治しましたから、私はもう帰ります』

Aは立ち上がり、その場を去ろうとする。

「……貴様は必ずポートマフィアが頂く」

『出来ると良いですね。あと……』

「？」

Aは振り向き、芥川を見た。

『……私を吸血姫って呼ばないで下さい。
私は……もう殺しなんかしてないので』

芥川の返事を聞くことはなく、Aはそれだけ言い残して探偵社へ戻っていった。

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