弐拾陸 ページ42
「分かったわ。…後でしっかり嘘偽りなく吐いてもらうから。」
このこんのすけ＿全ての管狐がそうなのか知らないが、こちらのこんのすけは大抵不味いことがあると逃げる。
それは誰よりも迅速に、
死に物狂いで、
そして事が終わったあとに何食わぬ顔でどこからが現れる。
それがここにいるこんのすけだ。
まあ、それは大抵こんのすけの仕事以外だったりするわけで、本丸を統治する審神者の仕事のサポート係である以上、下手に仕事以外のことをやるといささか面倒なことが起こるのだと知能が高いゆえの自己防衛なのかもしれない。
とはいえ＿ここで逃げようと考えるのは私を敵に回すことと同義なわけだが…。
じろりと睨めば、こんのすけはビクリと反応し、逃げませんよ…！！
と求めてもいない言い訳をペラペラ言い始める。
虫が良すぎる。
呆れ気味に横目でみながら床に落ちた白い紙を拾ってそれをざっと目を通す。
「……。」
私はその中身に何もいえず、それをじっと凝視するしかなかった。
その様子を不穏に思ったのかこんのすけが喋る。
「い、如何なされたんです？」
「…読めない。」
日本語を幾度となく勉強しまくった私でも……この字体が崩れたへにゃへにゃ文字だけは無理だった。
「…この手紙は誰から？」
「あ、いや、…その、本人からは口止めされているといいますか……。」
「じゃあ、他に何か言ってた？」
「捨てても構わない、と仰られていました。」
「…。」
私が"読めない"ことを知らないのか、それとも分かっていてこんなものを送ってきたのか。
「蘇芳様。私には仮名文字の翻訳機能も備わっておりますが」「いや、いい。自分で勉強するから。」
翻訳するための資料すらなかった頃と比べれば、今はなんでも揃っている。
審神者になる以上、昔の日本の歴史を学ばなければならないし、歴史資料を読み漁るにしてもその仮名文字を読めないなんて話にもならない。
綺麗に和紙を折りたたんで、こんのすけに向き直る。
「さあて！手紙の件はこれで終わりね！
洗いざらい吐いてもらうわよ〜、こんのすけちゃん☆まだまだ夜は長いわよお〜！」
「っ！！？…え、えーとぉ…」
とびっきりの優しさに溢れる笑みを顔につくれば彼は後ずさりし始める。
「＿今更逃げようなんて思ってねぇよな？」
そう言って彼の頭を優しく撫でればぶるぶると体を震わせてこくりと頷いた。
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作者名：沙恵燬 | 作成日時：2019年2月1日 1時
