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少年は真っ白なシャツを着ており、青いハーフズボンにサスペンダーの付いた物を履いている。
靴はよく磨かれて光沢のある黒靴だったのだが、それを見るなりAはぎょっとした。
気遣ってくれた優しい彼を勢いよく突き飛ばし、急いで絡まって来た腕を解いた。
まさか離されるとは思いもしなかったようで、少年は垂れ目をまん丸にしてAを見る。
行き場を失くした両腕がふらりと宙を掻き、可愛げな桃色の唇が震えている。
「……どうしたの、どうして僕から逃げるの？」
大きく両腕を広げるが、Aが1歩も少年に近づくことはない。
むしろ完全に少年に対し怖気づいてしまっていた。
栗色の瞳はまだ残っている涙で滲み、心臓は自分でも驚くくらいに休む暇なく動き回っている。
「ねえ、どうして？――僕だよ姉さ…」
少年が1歩前へ出る。
瞬間、Aは鋭い声にならない悲鳴を上げ、遂にガクガクと揺れる膝を高く上げて走り出した。
少年とお揃いのその靴で。
Aの足は風のように速い、体力さえ更にあれば鬼ごっこなどお手の物であった。
そのAが今、体の中にある力全てを足に籠めて大地を駆けている。
辺りはまるで晴れる気配のない霧。
白くぼやけた世界を息も切れ切れに突き抜けようとするも、霧はじっとりとAに纏わりいてくる。
それがより一層不安を膨張させた。
「行かないで！」
後ろから張り詰めた怒鳴り声が聞こえてきた。
振り返らずとも少年のものと分かる、止まる必要はない。
だが彼女は止まった。
好きで止まったのではない。
「…何これ、嫌、痛い痛い、嫌だ、来ないで…」
Aの細い足に爪を食い込ませて、骨を折る勢いで掴む大きな手。
明らかに少年の手ではない。
大きさからしてではない。
見てはいけないと頭では理解していても、どう言う訳かAは目を向けてしまった。
そして見てしまった。
自分の足を掴んでくるそれが、滴るほどに血に塗れているのを。
それに人間の皮はなく、無残に引き千切られた血管がぶら下がっていたのを。
「……ねえ、姉さん、お願い…」
ぴくりとも身動きできないAに、縋りついてくる少年の声。
Aは再び恐怖に陥れられた。
「あの男の目を！ヘンリーの目を！僕の、ディアンの目を奪い返して！！」
先ほどまで確かにあった少年の目は、真っ赤な空洞と化していた。
そこからだらりと血が落ちれば、Aの服は紅に染まった。
姉さん覚えてる？
お母様、赤いドレスがとても似合っていたよね。
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白梅 和平(プロフ) - ccさん» コメントありがとうございます！第3章は特に内容が複雑なため書くのに苦労しているのですが、ちゃんと伝わっていると分かり安心しました。久々のコメントで嬉しかったです。更新頑張ります！ (2018年4月8日 14時) (
レス) id: 4fe8a6b6f6 (このIDを非表示/違反報告)
cc(プロフ) - 情景描写が繊細で、独特な世界観にすぐ引き込まれてしまいました。もっと評価されるべき作品だと思います。続き、楽しみにしています！ (2018年4月7日 10時) (レス) id: 3524d9e2e8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：白梅 和平 | 作成日時：2017年7月4日 21時
