―3 ページ10
「ぃゃぁぁあああああああああああああああぁぁぁああっ」
長い髪を振り乱し、瞳孔までをも大きく開かせたAは悪夢から目覚めた。
とても良い目覚めだとは言えまい。
じわりと滲んだ汗がうなじを伝い服に音もなく染みて消える。
夢の中で紅に染まったそれへ消える。
つい先まで静かな寝息を立てていた彼女がこうなっては、彼が黙っていなかった。
「………」
否、黙ってはいるのだが。
少し距離を置いて座っていたヘンリーはすぐにAのすぐ隣に控え、真っ蒼な顔に肩を小刻みに震わせているAの手を取る。
ヘンリーの手に温もりはなく冷たいくらいなのだが、それを補うためにしっかりと握った。
これでAは安心する。
過去のデータも含めてこう結論付けた彼だったが、残念ながらそうはいかなかった。
弱々しく手に触れてきたAが、すっと彼の顔を上目遣いに覗く。
「ヘンリー…」
彼女の瞳には確かに自分が映っている。
けれどその可愛らしい目はどこか虚ろで、視線を合わせているはずなのに合わせていない気もする不可解なものである。
いつも笑顔で朝の挨拶を交わす彼女ではない。
やがてヘンリーは気づいた。
Aの視線の先が、彼の持つ藍色の左目に向けられているのを。
何かに憑りつかれたかのように食い入って見てくるので、自分でも意識しないうちにのけ反っていた。
抵抗する態度を見せた彼にAはやっと正気を取り戻した。
「ご、ごめんね」
すぐに彼女も見入るのをやめ、彼の大きな手を小さな手で力一杯握り返した。
そしてにこりと笑いかける。
「おはよう、ヘンリー」
そのままぴょんとベッドの上に立ち上がったかと思えば、Aはぎゅっと彼に抱きついた。
行儀が悪いと注意する意を兼ね、ヘンリーは慣れた様子で彼女を抱きしめ返してからすぐ離れようとした。
しかし、彼は中々離そうとしない。
Aは抵抗こそしないが、不思議に思い、彼の背中をポンと叩く。
「ヘンリー？」
最終的にゆっくりと離されたのだが、すぐにヘンリーはAの額に手を当てた。
何事かとおどおどするAだったが、その理由は薄々自身も気づいていたのだ。
いつも以上に熱い身体。
ぺたりとひっついてくる汗。
そして、昨日より酷くなった気のするズキズキとした頭痛。
今まで何回かなったことはあるが慣れやしない、風邪である。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 5人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
白梅 和平(プロフ) - ccさん» コメントありがとうございます！第3章は特に内容が複雑なため書くのに苦労しているのですが、ちゃんと伝わっていると分かり安心しました。久々のコメントで嬉しかったです。更新頑張ります！ (2018年4月8日 14時) (
レス) id: 4fe8a6b6f6 (このIDを非表示/違反報告)
cc(プロフ) - 情景描写が繊細で、独特な世界観にすぐ引き込まれてしまいました。もっと評価されるべき作品だと思います。続き、楽しみにしています！ (2018年4月7日 10時) (レス) id: 3524d9e2e8 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：白梅 和平 | 作成日時：2017年7月4日 21時
