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自然と足の行く先が、不快な音のする方へと進んで行ってしまう。
Aは無意識であった。
その知識と常識、道徳とが一切ない脳には、もはや考える力が残っていない。
恐怖という色に塗りつぶされて、無知の白は簡単に描き変えられてしまっていた。

ずりずりと引きずりながら辿り着いた先に続く、地下への階段。
この目で見るのは初めてであった。
階段の先は絵の具をそのまま付けたように真っ黒で、宙に舞う埃が更に視界を狭くさせてくる。
子どもどころか大人も行きたがらないようなその先へ、Aは1段ずつ右足で下りながら進んでいった。
なるべく足音をたてないよう、慎重に下りる。


全神経を足先に集中させている中、突然、頼りにしていたあの音がぷつりと止んだ。
不審に思ったAだったが、次の途端、彼女の小さな鼻に刺さるような酷い臭いが辺りに充満する。
なんだこの臭いは。
鼻どころではない、喉の奥までも突いてくるような刺激の強いもの。
嗅いだことのない気持ち悪い臭いであるはずなのだが、彼女はこの臭いに覚えがあった。
これは、そう、ドアノブのような臭いだ。
金色に光る、固い、金属のような錆びついた臭い…。

指でぎゅっと鼻をつまみながら、やっとの思いで階段を下りきる。
地面は冷たい石の床に変わっていて、更にその先にはぼんやりと明かりが見えた。

誰かいる。
直感でそう思ったAは、無知を逆手に恐れ知らず明かりの方へと忍び歩く。

ゆっくりと足を伸ばせば、臭いそのままに新たな音が聞こえてきた。
カキン、カチンと、何か、金属同士が小さくぶつかりあっているような音。
ギギギと軋んだ音も混ざり始め、やっとAは機械の音だという結論に至った。
けれど、なぜこんな場所で機械の音が?
疑問に思っているのも束の間、ついに明かりの漏れた部屋の入口に到着する。
浅くなっていた息を深く吐き、そしてまた吸うと、少女はそっと部屋の中を覗いた。


彼女の純粋な瞳に入った光景は、まさに地獄絵図であった。


部屋全体を囲むようにして置いてある透明な箱、箱、箱。
その中に―――人がいた。
いや、人ではない。
天井からの白い蛍光灯に照らされて、全身が銀色に発光しているかのように光り、精密な個々の部品が、間接と思われる箇所から覗いている。
足と手は、何本にも渡って絡まれた赤黒いコードから成り立っており、まるで人間の血管のようであった。
その上に被せられた分厚い鉄板が、誰にも壊されまいとぴったりと寄り添っている。

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設定タグ:オリジナル , 名前変換 , スチームパンク   
作品ジャンル:ファンタジー, オリジナル作品
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白梅 和平(プロフ) - ccさん» コメントありがとうございます!第3章は特に内容が複雑なため書くのに苦労しているのですが、ちゃんと伝わっていると分かり安心しました。久々のコメントで嬉しかったです。更新頑張ります! (2018年4月8日 14時) (レス) id: 4fe8a6b6f6 (このIDを非表示/違反報告)
cc(プロフ) - 情景描写が繊細で、独特な世界観にすぐ引き込まれてしまいました。もっと評価されるべき作品だと思います。続き、楽しみにしています! (2018年4月7日 10時) (レス) id: 3524d9e2e8 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:白梅 和平 | 作成日時:2017年7月4日 21時

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