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「…ッイ、ス……ルイ、ス様…？」
本能的恐怖とはまさにこのことか。
逃げようにもそこに鎖を繋げられているかのように、足がびくとも動かない。
冷たい汗が背中をつつと流れていき、全身に鳥肌が立つ。
ディアンが求めているのはこんな父親の笑顔ではない、こんな化け物じみた正気の沙汰ではないような笑顔では。
見たくないと強く願っているのに、それでも目が離せずにいる。
「ああ…ああ、っははははああ〜、あははっ…あははははははは！」
あの鉄壁の表情が見る見るうちに剥がされていき、隠されていた本性がむき出しになる。
ルイスは本当に嬉しかった、ただ純粋に嬉しかったのだ。
今目の前に、理想の材料があることが。
息子を掴むその手にじわじわと力がこもっていき、口には出さぬともお前を逃がさないと物語っている。
いよいよ恐怖が最頂点に達したディアンは逃げようともがいた。
「おやめ下さい！もうやめてっやめてよっ！お願い！」
口調や言いつけはこの際論外であった。
生きるか死ぬかの瀬戸際に、必死に叫んで抗う。
けれども相手は自分よりも遥かに大きな相手で、力も体もすべてにおいて勝てない。
それでもディアンは抵抗をやめなかった。
もしかしたら助かるかもしれない、僅かな希望に縋り抵抗した。
だが、運命は残酷だ。
壊れたおもちゃのように笑い続けているルイスが、羽織っていた白衣のポケットから空いている方の手で何か取り出す。
使い古されて所々錆びついたそれは、この気味が悪いほどよく晴れた青空をそのまま映し出している。
――ルイスはナイフの切っ先を、あろうことか実の息子に向けていた。
ディアンの瞳は絶望を帯びた。
唇をガタガタと震わせ、歯がカチカチと鳴る。
目の端から流したってどうしようもない涙が零れ落ち、掴んで離さないルイスの手に付く。
温かさが冷たいルイスの手に伝わった。
その途端、あれほどやかましかった笑い声がピタリと止まる。
卑しく細められていた奴の目が、ふと緩んだかと思えば、上がりすぎていた口角が縮こまる。
そしてなんと、手の力が弱まったではないか。
またとないチャンスにディアンは素早く逃げの体制を取るが、だめだった。
ルイスが言ってしまったのだ。
あの言葉を。
「許しておくれよ、ディアン」
悪意がない、澄んだ瞳。
優しさがにじみ出る、三日月に微笑んだその笑顔が。
ああ、やっと呼んでくれた。
「はい、お父様」
白衣が、赤に染まる。
それは愛の色だった。
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白梅 和平(プロフ) - ccさん» コメントありがとうございます！第3章は特に内容が複雑なため書くのに苦労しているのですが、ちゃんと伝わっていると分かり安心しました。久々のコメントで嬉しかったです。更新頑張ります！ (2018年4月8日 14時) (
レス) id: 4fe8a6b6f6 (このIDを非表示/違反報告)
cc(プロフ) - 情景描写が繊細で、独特な世界観にすぐ引き込まれてしまいました。もっと評価されるべき作品だと思います。続き、楽しみにしています！ (2018年4月7日 10時) (レス) id: 3524d9e2e8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：白梅 和平 | 作成日時：2017年7月4日 21時
