=16 ページ38
鏡に映る自分の姿を隅から隅まで眺めまわし、最後にくるりと1回転する。
レースの付いたドレスがふわりと浮かび、気分はまるで魔法をかけられたお姫様。
どこにも不備が見当たらないことを確認すると、鏡の中の自分ににっこりと笑った。
Aが数あるうちに選んだ服は、段状に細く折られたひだがある水色のドレスに、腰に真っ白なエプロンを巻いたエプロンドレス。
そのまま絵本から飛び出てきたような可愛らしい物であった。
余談であるが、この服装はAお気に入りの本『プレザンス嬢の夢の旅』のプレザンスとほぼ同じ服装らしい。
上機嫌に鼻歌を歌いながら、よくやってしまう癖のようで、茶色の巻き毛を指先でくるくるといじっていると、軽快にドアをノックする音が聞こえてきた。
待ってましたとAがドアを開ければ、そこには予想通りヴィクトリアがいた。
以前会ったときは白いドレスであったが、今日はまったく別の色の服を着ていた。
服の作り自体は修道服に似ているが、それは黒ではなく橙に近い赤――つまりは緋色であった。
服として使えば明るく目に痛いような強烈な色であるはずが、ヴィクトリアにかかればそんなことはない。
彼女の美しさがそれを和らげ、長くウェーブかかった髪が肩にかかる。
そしてこれは前と同じであるが、首にかけられたペンダントが上品に輝いていた。
要するに、緋色のドレスはヴィクトリアの生まれつきの美しさを引き立てる役にすぎないのである。
ほう、と、あまりの美しさにため息ともつかぬ息を飲むA。
無自覚のヴィクトリアが名を呼べば、すぐに現実に引き戻される。
すぐに母親の見目麗しさを称えようとすれば、その前にヴィクトリアがAの可憐な美しさを褒めてくれ、恥ずかし気に目線を逸らすはめになった。
「ちょっと恥ずかしいや…」
「あらそう?本当のことを言っただけよ」
くすくすと笑うヴィクトリアに、Aも曖昧な笑顔で返した。
それはそうと、Aは自分よりいくらか大きな母の手を握る。
「お父様たち、もうお出かけになった?」
本来の目的を思い出したかのようにヴィクトリアははっとし、すぐに深く頷いてみせる。
「…ええ、もうお屋敷からかなり離れた所にいると思うわよ」
「っ、じゃあ…」
今にも嬉しさで飛び跳ねそうになる娘の手を握り返し、玄関へと空いた手を向けた。
「さあ、行きましょう…お外へ」
5人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
白梅 和平(プロフ) - ccさん» コメントありがとうございます!第3章は特に内容が複雑なため書くのに苦労しているのですが、ちゃんと伝わっていると分かり安心しました。久々のコメントで嬉しかったです。更新頑張ります! (2018年4月8日 14時) (レス) id: 4fe8a6b6f6 (このIDを非表示/違反報告)
cc(プロフ) - 情景描写が繊細で、独特な世界観にすぐ引き込まれてしまいました。もっと評価されるべき作品だと思います。続き、楽しみにしています! (2018年4月7日 10時) (レス) id: 3524d9e2e8 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:白梅 和平 | 作成日時:2017年7月4日 21時