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今まで食堂へ行くか用を足すか、またはルイスのごく偶にしか下りない許可ででしか歩いたことのない廊下を歩く。
確かな足取りで、緊張した面持ちで、熱い期待の心持ちで歩く。
時折、決して許されない禁忌を犯しているような気がして、何度か足を止めたことがあった。
だがしかしヴィクトリアはちゃんと待ってくれて、不安げに揺れるAの瞳をじっと見てくれる。
大丈夫、貴女は悪くないわ。
これは当たり前のことなのよ。
そう目で言ってくれたから、Aは母の手に引かれて玄関へ辿り着くことができた。
遠めに見た屋敷の玄関の両扉が、今、Aの目の前に佇んでいる。
外用の黒い靴を履いて、あとはドアノブをその手で捻るだけというところに。
激しく脈打つ心臓が少し痛む中、Aはもう1度母親の顔を見上げた。
母はすぐ隣にいた。
彼女の栗色の瞳の中にいるAはとてつもなく小さく怯えていたが、やがて腹をくくり、汗ばんだ手で金属製のドアノブを捻った。
扉は少し強く押せばすぐに開いた。
そしてすぐ…本物の太陽の光がAを迎え入れ、目の前を温かい光で照らしてくれる。
1度眩しさにぎゅっと目を瞑ってしまうものの、急いでAは外の世界へ目を向け、そしてそこに広がっている景色に目を奪われた。
扉からまっすぐに続く、肌色に近い土によりできた砂利道。
そのすぐ両脇に何本にも連なり生えている、自分よりも何倍も背の高い木々たち。
皺の深い黒く細い表面に、上へ上へと糸のように細い枝が、その先端に葉を生い茂らせている。
葉の茎や葉脈1つ1つが芸術品のようにきめ細かに美しく見え、他の木の葉たちと寄り添うように重なり合っていた。
よく見れば濃い赤色の実を実らせているものもあり、改めて見れば木の下にはこの実がいくつか落ちていた。
そして砂利道ではない所には、細く短い草がそこらに生えており、場所によっては長かったり短かったりとその全長は様々である。
その中に目を凝らせば、豆粒ほどの小さな虫がピョンピョンと跳ね上がっている。
大地の恵みに喜びと感謝を体現しているように。
先ほど扉を開けた際に1番乗りで出迎えてくれた、太陽。
Aの足元にくっきりと黒い影が残るほどぎらぎらと照り、温もりと光を届けてくれた。
そして…風が、吹いている。
全ての生き物をそよそよとどこかへ誘い込むように、優しく頭を撫でてくれるように。
それにはAも含まれていた。
風に吹かれて、少女の胸辺りまで伸びた髪がさらさらと靡く。
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白梅 和平(プロフ) - ccさん» コメントありがとうございます!第3章は特に内容が複雑なため書くのに苦労しているのですが、ちゃんと伝わっていると分かり安心しました。久々のコメントで嬉しかったです。更新頑張ります! (2018年4月8日 14時) (レス) id: 4fe8a6b6f6 (このIDを非表示/違反報告)
cc(プロフ) - 情景描写が繊細で、独特な世界観にすぐ引き込まれてしまいました。もっと評価されるべき作品だと思います。続き、楽しみにしています! (2018年4月7日 10時) (レス) id: 3524d9e2e8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:白梅 和平 | 作成日時:2017年7月4日 21時