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「出かけてくるね。……いい子で待っているんだよ」
さりげなくAの寝癖を直しながら言うルイスのその姿は、誰もが理想とする優しい父親の姿そのものであった。
すっと目を細める仕草といったら、男性でありながらも赤子を腕に抱く聖母のようである。
愛と慈しみに満ちている眼差しを受けながら、Aは元気よく返事をした。
「うん、お父様！私、今日もいい子で待っているからね」
とびっきりの笑顔を向ければ、先ほどより更に嬉しそうにするルイス。
そして一言二言言葉を交わし、彼は幸せそうな表情で部屋を去っていった。
内心ほっと安堵のため息を漏らしながら、刻々と迫りつつある外へ出られる時を楽しみにする。
あとはルイスが屋敷から出るのを待つだけだ。
Aは洋服箪笥からいそいそと今日着る服を選び始めた。
「……待っていてね、A」
――扉の向こうからこちらに語りかけてくる、ねっとりとした意味深長なこの言葉に、残念ながら少女は気づかなかった。
何故なら、少女はあまりにも無知であり、あまりにも人を信用しすぎていたからだ。
ルイスがAの部屋を出てすぐ、息子のディアンが駆け寄って来た。
彼が着ているのはどうやら学校へ行くためらしい、黒一色で統一された制服に、頭にはつば付き帽子が乗っかっている。
握っている物は硬い制鞄に加えて、ルイスの物であるあの大きなトランクがあった。
ディアンは特にそのトランクをとても大事そうに抱えており、こちらに声をかけてくる。
「ルイス様、A様とのご挨拶は済まされましたか？」
「…ああ」
「では参りましょう、僕が研究所まで荷物を運ばせて頂きます」
どうりで大事そうに抱えているわけだ、子供が持つには重くて大変だろうに。
だがこれは毎度そうしてもらっているようで、ルイスはまた「ああ」と短く答えるだけであった。
かしこまった服装をしているディアンに対し、ルイスは何日前か前にも着ていたやや薄汚れている白衣に袖を通している。
さて行くかと玄関へ足先を向けたルイスであったが、そのまま足を進めることもなく、どういうことか立ち止まったまま動かない。
「…ルイス様？」
心配したディアンが声をかけると、ルイスが目も合わせず問いかけてきた。
「おい、ヴィクトリアに別れは言ったか」
「お母様に？はい、ルイス様が行っている間に」
「そうか……ならいい、行くぞ」
そしてさかさかと玄関に向かい、急いでディアンが後を追った。
6時の鐘が微かに聞こえる。
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白梅 和平(プロフ) - ccさん» コメントありがとうございます！第3章は特に内容が複雑なため書くのに苦労しているのですが、ちゃんと伝わっていると分かり安心しました。久々のコメントで嬉しかったです。更新頑張ります！ (2018年4月8日 14時) (
レス) id: 4fe8a6b6f6 (このIDを非表示/違反報告)
cc(プロフ) - 情景描写が繊細で、独特な世界観にすぐ引き込まれてしまいました。もっと評価されるべき作品だと思います。続き、楽しみにしています！ (2018年4月7日 10時) (レス) id: 3524d9e2e8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：白梅 和平 | 作成日時：2017年7月4日 21時
