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ありがちな話になるが、Aはまず自分の耳を疑った。
外に対する夢が膨らみ過ぎてついに幻聴が聞こえる域に達してしまったのだろうか、と。
震える唇をぎこちなく上下させながら、Aはヴィクトリアに縋りつく。
「お、お母様…本当に言ってるの?」
「ええ、お母様は嘘を吐かないわ」
「だって……だって、だって!お外よ、お母様はこの私を、お外に行くよう誘っているのよ!?」
「A」
半狂乱になりだした娘の小さな手をヴィクトリアは救うように握る。
「……あのね、お外に出ることは何も不思議なことではないの。
お外に出て、大きく息を吸って、深く吐きだす。大地を駆け抜ける風を感じて、太陽の光を体いっぱいに浴びる…これは普通なのよ」
ゆっくりと言い聞かせるヴィクトリアの目は、矢を放つが如くまっすぐにAを見つめていた。
嘘偽りない事実であったし、また正論であった。
「あの人は何を考えているのか知らないけど、やっぱり外に出られないのはおかしいわ。生まれて1歩もここから出ていないのよ?それに他人にも会わせないなんて…ええ、普通じゃない、普通じゃないわ。大切に思ってるならこれは間違ったやり方だわ…人間として…そうね…」
後半はやや独り言のようでもあったが、ヴィクトリアははっきりとこう述べたのであった。
これまでAは頭の良いルイスのことばかり信用していたが、母親の主張によってじわじわと疑うようになる。
やっぱり自分のこの環境はおかしいんだ。
普通の子はディアンみたいに学校に行って、お外でたくさんお友達と遊んで育つんだ。
日の光に直接晒されることもなく、生白い肌を晒しているのは間違っているんだ。
お母様の言う通り、風を感じて、本当の光をいっぱい浴びる…この普通のことが達成できたのなら、なんと幸せなことだろう。
Aは暫くぼうと突っ立っているだけであったが、きっと心が決まったのであろう、母親の手をしかと握りしめる。
そして、今度はAの方から矢を放った。
「…お母様。私、外に出てみたい。このままお父様の言う通り、ずっとお部屋にいるのは嫌!」
小さな口から発せられた大きな声であった。
ヴィクトリアは娘の意志をしっかりとくみ取るように力強く頷いた。
「ええ……そうしましょう。ずっと言いなりでいたけれど、今度ばかりはそうはいられないわ…」
たった1時間だけでも1分だけでもいい。
娘に本当の外の世界を見せてあげたい。
そして、上手くいけば…。
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白梅 和平(プロフ) - ccさん» コメントありがとうございます!第3章は特に内容が複雑なため書くのに苦労しているのですが、ちゃんと伝わっていると分かり安心しました。久々のコメントで嬉しかったです。更新頑張ります! (2018年4月8日 14時) (レス) id: 4fe8a6b6f6 (このIDを非表示/違反報告)
cc(プロフ) - 情景描写が繊細で、独特な世界観にすぐ引き込まれてしまいました。もっと評価されるべき作品だと思います。続き、楽しみにしています! (2018年4月7日 10時) (レス) id: 3524d9e2e8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:白梅 和平 | 作成日時:2017年7月4日 21時