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瞬き1つせずにじっと立っているヘンリーに、老人は人差し指をすっと向けた。
年のせいか小刻みに揺れている指は、ヘンリーの後ろにあるドアに向けられている。
入れ、と言うことだろうか。
ヘンリーはくるりと振り返り、黒手袋を着けたまま少し錆びついたドアノブに手を伸ばす。
そのまま捻って押してみれば中からまばゆい光が差し込んできた。
すぐに瞳の機器を調節し、暗い玄関とは対照に明るい部屋の様子を確認する
…のがヘンリーの普段の行動であるのだが、今回ばかりはそうはいかなかった。
視界に入ったある光景に、人間で言う全神経が集められる。
光の速さで情報処理機能が分析を始めるも、彼は結論が出ぬうちに、自身も気づかぬうちに駆け出していた。
部屋の隅にある、雪のように白い清潔なベッドで、規則正しい息遣いで眠る少女。
閉じられた瞼に長く整った睫毛があり、ふっくらとした頬に薄く赤みが差している。
間違いない。
ヘンリーの主であり、世界でただ1人の姉弟。
Aであった。
Aのもとに辿り着くなり、ヘンリーは彼女の小さな手を大きな手でぎゅっと握った。
両手でしっかりと、Aの存在と生きていることに感謝し、心の底から安心しているように。
そして、蒼い瞳を眩しそうに細めた。
手を強く握られながらもAは目を覚まさないが、ヘンリーは構わなかった。
この子が生きていた、また自分の近くに現れてくれた。
ヘンリーにはそれだけで十分なのだ。
「…声をかけなくていいのか」
気がつけば、レインコートを脱いだ老人がヘンリーの後ろに佇んでいる。
それと同時にヘンリーは改めて部屋を見渡した。
Aが寝ている物以外にもいくつかベッドが設けられており、どれも新品のような清潔さを持っている。
ベッドの横には小さな机と椅子があり、机上には陶器の花瓶が置いてあった。
しかし花は活けられておらず、その役目はまるで果たしていない。
更に、出入り口の両隣には食器棚があったが、中には食器は入っていない。
代わりに小さな小瓶らしき物、木箱、タオルなどが詰め込まれていた。
ここは…。
「ヘンリー」
老人が何かをぽいっと投げてきた。
ひょいと受け止めると、それはまだ使われていない手帳と万年筆。
いつの間に持ってきてくれたのか気になるところだが、それよりも。
キャップを素早く取り、手帳の1ページ目を捲ると、ペン先を滑らすようにして文字を書き連ねた。
【いくつか訊きたいことがある。
お前は一体何者だ。】
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白梅 和平(プロフ) - ccさん» コメントありがとうございます！第3章は特に内容が複雑なため書くのに苦労しているのですが、ちゃんと伝わっていると分かり安心しました。久々のコメントで嬉しかったです。更新頑張ります！ (2018年4月8日 14時) (
レス) id: 4fe8a6b6f6 (このIDを非表示/違反報告)
cc(プロフ) - 情景描写が繊細で、独特な世界観にすぐ引き込まれてしまいました。もっと評価されるべき作品だと思います。続き、楽しみにしています！ (2018年4月7日 10時) (レス) id: 3524d9e2e8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：白梅 和平 | 作成日時：2017年7月4日 21時
