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2人は互いに睨み合いながら黙り続けていた。
ヘンリーに関しては老人が少しでも身動きすれば叩き斬らんばかりの威圧を漂わせており、刀を持つ手を下ろす気配はない。
対して老人は始めこそヘンリーに気迫負けしそうになっていたが、次第に負けじと彼の目を見詰め返している。
今だ降りやむことのない雨だけがやかましく響いていた。
彼らの耳にも聞こえているはずなのだが、まるでそんな雑音など気にかけていない様子である。

やがて、老人が静かに瞳を閉じた。
緊張の解けずにいるヘンリーがより一層刀を強く握ると、老人は重い瞼をゆっくりと開けた。
再び現れた藍色の目に曇りは無い。
次いで、固く閉じていた口をもゆっくりと開いた。

「……若者よ」

ヘンリーが返事をすることはなかった、いや、できなかった。
瞬きを1つするだけ。
それでも、老人には充分であったらしい。

「…お前の目は、儂(わし)と同じだ。同じ目なんだ、同じ、蒼い瞳よ」

しわがれた声が放った言葉を聞いた時、ヘンリーは理解ができずにいた。
しかし今、己が睨んでいる彼の顔をまじまじと見ていくと…全身に電流が流れたような衝撃が走る。
この老人は…



「ルイス・リデル――――儂の息子の名だ。お前なら、聞き覚えがあるんじゃないか」



ヘンリーは目を見開いた。


ルイス・リデル……間違いない、Aの父親の名前であった。
私を作ったあの忌まわしき、狂気に満ちた人間。
Aの母親と弟、自身の妻と息子を殺した人間。

老人の顔はどこかあの男を思わせる面影があり、なるほど親だと言われても頷ける。
つまりAの祖父にあたることになる。
何とか理解が追いつくと、ヘンリーはあれほど頑なに向けていた刀を下ろし、漂わせていた雰囲気をしまいこむ。
だが依然と睨みつけるのは忘れず、老人の姿をしっかりと捉えていた。
取り敢えず危険は免れたと知った老人は、曲がった腰を軽く叩き、改めてヘンリーに向き直る。

「名は」

短い質問に答えるべく胸元のポケットに手を伸ばしたが、そこにはすっかり水を含み使い物にならないメモ帳が。
地面に書こうにもこの水たまりである。
仕方無く刀の切先を鞘に当て、これではきっと瀬尾に怒られるなと脳内の片隅で反省しながら、ガリガリと浅く刻んでいく。
やがて完成すると押し付ける形で鞘を渡した。
老人は見にくそうに眉を寄せながら、彼の名を呟いた。

「…ヘンリー、か」

鞘を返すと、くるりとレインコートを翻した。

「ついてこい、ヘンリー」

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作品ジャンル:ファンタジー, オリジナル作品
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白梅 和平(プロフ) - ccさん» コメントありがとうございます!第3章は特に内容が複雑なため書くのに苦労しているのですが、ちゃんと伝わっていると分かり安心しました。久々のコメントで嬉しかったです。更新頑張ります! (2018年4月8日 14時) (レス) id: 4fe8a6b6f6 (このIDを非表示/違反報告)
cc(プロフ) - 情景描写が繊細で、独特な世界観にすぐ引き込まれてしまいました。もっと評価されるべき作品だと思います。続き、楽しみにしています! (2018年4月7日 10時) (レス) id: 3524d9e2e8 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:白梅 和平 | 作成日時:2017年7月4日 21時

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