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水入りのガラス瓶片手に、ヘンリーはその場に立ち止まっていた。
さらさらとなびく亜麻色の髪に隠れた耳奥底で、複雑に絡まった電線が振動する。
振動は機内の情報処理場に伝わっていき、その中で億などとうに超えた単語が光の速さで飛び交う。
そして目当てのものを見つけると、これまた目にも止まらぬ速度で結果を送った。
『雨が降っている』
文字にすればこうなるが、実際はこの間0.3秒である。
ヘンリーは廊下にある大きな窓を視界に捉え、その愁いを帯びた瞳でしかと確認した。
窓には透明の筋が幾本か通っており、時折風で吹き込んできた雨がぶつかっている。
情報は正しかった。
彼はそれを頭に入れると同時に文字通り思考回路を巡らせていく。
雨が降ると気温が下がる。
Aに暖かい恰好をさせよう。
窓は開いていなかったか。
だとしてもAが閉めているかもしれないが。
無論これも0.3秒の出来事である。
念入りに磨かれた革靴を規則正しく鳴らし、ヘンリーは階段を上っていく。
その先には恋仲と思わしき2人の人間がいたが、女の方はヘンリーを見た途端その視線を熱くさせ、まるで糸で引っ張られているかのように彼の姿を目で追っていった。
男の方は機嫌悪そうに彼女の視線を辿るが、行きついた先にいた人間離れした美貌を持つヘンリーを見て分かったのだろう。
全て諦め魂が抜けた男は肩を落とし、寂し気に女を眺めていた。
一方ヘンリーはこんなことなど日常茶飯事であり、水を貰いに行った際にもそうだが女性従業員たちに穴が開くほど見つめられてきた。
だが、口が利けないと伝えれば逆に魅力を引き立たせられたようで、女性たちの飢えに飢えギラつかせた獣の目を彼は暫く忘れないだろう。
足を動かす度に揺れる瓶の水がちゃぷんと音を立てれば、部屋の前に着いていた。
ほんの少し錆びついたドアノブを捻ろうとしたその時、彼は気づくことになる。
――嫌に静かだ。
過去にAが風邪をひいた時に「暇！」と言って部屋を走り回り、更に高熱になったことがある。
他にもドアを開けようとした瞬間驚かそうと突撃してきたり、頭がやられたのかぬいぐるみを意味もなく部屋中に並べたりしていた。
少し眉間に皺を寄せながら、彼はドアを開ける。
「………！」
そして、最悪の事態を目の当たりにしてしまった。
強風に煽られ揺れる窓から流れ込んでくる槍のような雨。
濡れた床に微かに残っていた小さな足跡があり、それが、閑静なエイ国の街並みへ向かっていた。
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白梅 和平(プロフ) - ccさん» コメントありがとうございます！第3章は特に内容が複雑なため書くのに苦労しているのですが、ちゃんと伝わっていると分かり安心しました。久々のコメントで嬉しかったです。更新頑張ります！ (2018年4月8日 14時) (
レス) id: 4fe8a6b6f6 (このIDを非表示/違反報告)
cc(プロフ) - 情景描写が繊細で、独特な世界観にすぐ引き込まれてしまいました。もっと評価されるべき作品だと思います。続き、楽しみにしています！ (2018年4月7日 10時) (レス) id: 3524d9e2e8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：白梅 和平 | 作成日時：2017年7月4日 21時
