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ふと、何かがコツンとぶつかる音が聞こえてきた。
始めこそ隣の部屋の人が動作したことによる音と思ったが、どうやら違った。
最初の音についていくかのようにして、再びコツンとぶつかる。
次第に回数が増えてきたのでAは耐え切れず視線をずらした。
「あ…」
そこにあったのは、濡れて歪んで見える窓の向こうに広がるエイ国の街並み。
今にも泣き出しそうだった灰色の雲が、ついに涙を零して雨を降らせていたのだ。
大粒の涙が冷たい風に煽られて落ちていく。
それでも建物は揺るぐことも気にかけることもなく佇み、工場の煙突からは一筋の煙が立ち上っている。
道行く人々は傘を差して雨を凌ぎ、互いに縺れ合うように自分の目的地へ歩いて行く。
他人の不幸など何知らぬ顔で。
先ほどの音は雨粒が窓に当たったものだろう。
近くにある椅子や机に支えてもらいながら、Aは意識も朧げに窓へ近づく。
小さな手をひんやり冷えたガラスに添え、鼻先を当てて景色を眺める。
火照った身体には丁度良かった。
静かな雨音が、エイ国の空気を湿らせていく。
不安げに揺れた少女の心を沈ませていく。
ねえ、行こうよ。
「――――え？」
もう、楽になりたいでしょう。
逃げちゃおうよ。
「――どこに逃げるの？」
行き先なんかないさ。
疲れるまで、力尽きるまで、死んじゃうまで。
逃げたら楽になれるよ。
「…私、いいのかなあ。楽になって、許されてもいいのかなあ……」
姉さんは何も悪くないよ。
――軋む悲鳴を上げながら開いた窓縁にしっかりとしがみつき、吹き込んできた雨をもろに受ける。
上手く力の入らない足をぶらつかせ、上半身を前へ屈ませる。
ふわりとした浮遊感が体に伝わった。
Aは窓から飛び降りていた。
本人は知らなかった。
今朝見たあの忌まわしい悪夢が、まだ続いていたと言うことを。
少女は悪夢に導かれ、新たな闇へ引きずり込まれていく。
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白梅 和平(プロフ) - ccさん» コメントありがとうございます！第3章は特に内容が複雑なため書くのに苦労しているのですが、ちゃんと伝わっていると分かり安心しました。久々のコメントで嬉しかったです。更新頑張ります！ (2018年4月8日 14時) (
レス) id: 4fe8a6b6f6 (このIDを非表示/違反報告)
cc(プロフ) - 情景描写が繊細で、独特な世界観にすぐ引き込まれてしまいました。もっと評価されるべき作品だと思います。続き、楽しみにしています！ (2018年4月7日 10時) (レス) id: 3524d9e2e8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：白梅 和平 | 作成日時：2017年7月4日 21時
