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「…なぁ、俺これまでこの子と接触した覚えがないんだけど、俺が認めてたって何のことだ?」
「ディープフェイクに関連した論文を取り上げて、画期的だとか言ってやがっただろう。五…いや、六年前か?」
「えっ、あれ書いたの君なのか!」
ジンの言葉ですぐに思い至って、驚きの声を上げる。
その論文が発表されたのはまだ俺が大学に通っていた頃で、誰も思いつかないような斬新な切り口からディープフェイクの技術向上に寄与しようとする、今思っても革新的な内容の研究論文だった。
「ハイスクールに通ってた頃に興味本位で手を出した分野だ、本業じゃねぇよ。だっつーのにアンタのせいで、そこのオッサンが覚えてやがった」
「本命の分野じゃないにしても、興味本位なんてレベルでかける論文じゃなかった。引用文献の数だけ見ても明らかだったけど、相当念入りに先行研究を読み込んでいないと書けない内容だ」
「…アンタみたいな雑魚研究者にとっては、確かにそうかもな」
ふい、と視線を逸らしながら呟いた青年に、ジンは怒りを抱いたようで忌々しげに舌打ちをしているが、俺は別段腹も立たなかった。
だって、確かに青年のレベルと比べれば俺の能力は下の下もいい所なのだから、彼は単に事実を述べているだけだ。
それに何より、吐き捨てるように言ったその仕草が、まるで褒められることに慣れていない不器用な子どものようだったから。
これが彼なりの照れ隠しなんだろうな、と気づいてしまった俺は、余裕を持って彼の感情や言葉を受け止めることができていた。
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作者名:櫂渦【とーか】 | 作者ホームページ:https://www.pixiv.net/users/28997649
作成日時:2023年12月8日 22時