15. バーにて。 ページ15
[-ベルモット’s side-]
「ここよ、入っていらっしゃい」
「…ん、うぉ、すげぇ雰囲気」
思わず、と言った様子で目を丸くしながらそう零した青年の表情は、いかにも年相応に見えた。
平凡と言うには少しばかり気が短くて、派手なファッションをした男ではあるが、今の彼を見てまさか人殺しだと思う人はいないだろう。
感動を素直にそのまま溶かし込んだようなその瞳は、どこかpuppyの雰囲気に通ずるものを感じさせる。
パーツとしてその形を見た場合には、別に特別何かが似ている訳でも無いのだけれど。
「で、誰に挨拶すればいいんだ?」
「そうね…あぁ、彼がいたわ」
案内している私の後ろを雛鳥のように大人しく着いてきていたその青年は、今も私のそばにこそいるものの、バーの中を何の遠慮もなくキョロキョロと見回している。
その視線を鬱陶しく感じたらしい何人かは胡乱げにこちらを睨みつけてきたが、青年の隣に立っているのが私だとわかると、文句を言うこともなく皆そっと顔を背けた。
けれど、少なからず空気のざわつく中でも一人だけ、カウンターに肘を着いたまま変わらぬペースで杯を口に運び続けている男がいた。
優秀な者ばかりを集めた幹部の中でも、飛び抜けた実力で畏怖と羨望の的となっている男。
まもなく新人幹部となる予定の青年に挨拶をさせるならまず彼からだろうと当たりをつけた私は、目線だけで青年を呼び付けると、男の黒い背中へと声をかけた。
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作者名:櫂渦【とーか】 | 作者ホームページ:https://www.pixiv.net/users/28997649
作成日時:2023年12月8日 22時