[映画編] サブマリン。 (ページ12)

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12. ページ12

「その様子だと、基本的な文法もご存知ですね」

「ああ、簡単な文書なら勘で何とか読める。嫌いなのは、文法ガン無視の会話とか諺みたいな慣習的なヤツだ。多少分かっても喋れねぇ」

「専門用語については？」

「論文に出てくるキーワードくらいは押さえた」

「わかりました。では、俺から直接教えるのは日常会話とフランスの文化的習慣にします。専門用語は情報分野から幾つか適当な論文をピックアップするので、それを自力で読みながら身につけてください」

文法通りの定型的な文章が読めるなら、型通りに組み立てられている論文は、文体こそ堅いが比較的読みやすいはずだ。

学習能力が高いなら、俺が教えるのは既に一人で粗方習得できている分野ではなく、本人も嫌いだと言っている、イレギュラーの多い話し言葉の方に絞るべきだろう。

「書き言葉を自分でやるってのに文句はねぇが、俺が習得したいのはあくまで言語だ。ご丁寧に文化までお勉強する気は起こらねぇな」

「言葉だけがコミュニケーションツールだと思わないでください。身振り手振りや表情にも、フランスに馴染んだ人間とそうでない人間の間には違いが生じます。それを身につける為には、知識としての文化を知っておく必要がある」

「ハァ、お綺麗な建前が聞きたいわけじゃねぇよ。アンタが勝手にそう思ってるってのは別に結構なことだが、俺をそれに巻き込むなっつーの。暇でお気楽なペット様はのんびりお勉強できるのかもしれねぇが、俺は引き継ぎやら変装習得やらで他にも山ほど仕事がある」

呆れたように溜め息を吐いて、言い捨てたピンガ。
俺が伝えたかったのは、綺麗事云々と言うよりも寧ろ自分がこれまで複数の言語を獲得してたり、日本人以外に変装したりする中で見つけた俺なりの “習得の近道” のつもりだったのだが、ピンガにはどうも馴染まなかったらしい。