[映画編] サブマリン。 (ページ1)

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[-A’s side-]

「えっ、俺がフランス語を教える？」

そんな突拍子も無い命令がジンを通して俺に下されたのは、弟たちが幹部としてコードネームを受け取ってから間も無い頃のことだった。
組織の拠点に誂られた専用の部屋の中で、チラリと時計に目をやりながらジンが言う。

「日常会話と専門用語に絞っていいから、できる限り叩き込ませろ」

「専門用語って、分野は？」

「情報技術系だ。ついでに警察関係の用語も教えておけ」

その言葉のおかげで、俺はようやく、何故この仕事が自分に回ってきたかに合点がいった。

ただフランス語を教えるだけなら、何も俺である必要は無い。
寧ろ、同じようにフランス語を話せる幹部なら、ベルモットの方が適役なはずだ。

古くは読書のためだけに知識として身につけた俺の言葉は、不自然な程では無いとはいえ、少々文語寄りだったり、古臭くて堅苦しかったりしてしまうところがあるから。

だけど、情報技術分野の単語となれば話は別だ。
ベルモットは基本、日常や社交界での会話をこなすために外国語を身につけているから、英語以外のプログラミング系統の用語については、特別強いという訳では無い。

その点、俺は大学で関連する分野を専攻していたし、組織にもその腕を買われてソフトの提供や研究開発の補助をしてきたから、一日の長がある。
話が俺に回ってきたのも、納得の事情だった。

ところで、情報技術分野に加えてもう一つ、警察関係の用語もついでに、とジンは言った。
となると、その目的は自ずと絞られてくる。

スパイや内部工作のために他組織へと潜入者を放つのは、何も正義の味方だけに独占された手法ではないのだ。