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「はー、食った!もう茶漬けは十年は見たくない!」
『ごちそうさまー。あ、杏仁豆腐頼んで良い?』
「お前ら⋯⋯」
顔に血管を浮かび上がらせる国木田だが、その向かいにいる敦は笑顔だ。
「いや、ほんっとーに助かりました!孤児院を追い出されヨコハマに出てきてから食べるものも寝るところもなく、
⋯⋯あわや彼と心中するかと」
「ふうん、君達施設の出かい」
「あ、いや彼は」
『僕は違うよ。なんか気づいたらここにいたからうろついてたら敦君に会ったてだけ』
「気づいたら?どういうことだ」
『その言葉のとおりだよ。起きたら川辺に寝っ転がってた。その前はどこにいたのかすら分からない』
気づいたら知らない場所にいて、それ以前はどこにいたのか、誰といたのかすら思い出せない。
その症状を表す言葉はこの世に一つだけある。
「⋯⋯なるほど、記憶喪失か。それは災難だったね」
そう眉を下げながら言う太宰だったが、それをまた国木田が睨む。
「おい太宰。俺達は恵まれぬ小僧共に慈悲を垂れる篤志家じゃない。
仕事に戻るぞ」
「お二人は⋯⋯何の仕事を?」
「なぁに」
そこで太宰は言葉を区切り、閉じていた目を見開く。
「探偵さ」
「探偵と言っても、猫探しや不貞調査ではない。切った張ったの荒事が領分だ。
異能力者集団武装探偵社を知らんか?」
武装探偵社。
昼は軍警、夜はポートマフィアに守られているこの町で、その間を取り仕切る異能力者集団。
ヨコハマに住んでいる者ならば一度は聞いたことのある名前だ。
『え、知らないんだけど⋯⋯敦君知ってる?』
「聞いたことは⋯⋯」
「まぁ、天使君はしょうがないかもね」
そう言われ少しムッとする天使の横で敦は好奇心を隠せず「それ」を聞いた。
後で聞かなければよかったと思うとも知らずに。
「そ⋯⋯それで、探偵のお二人の今日の仕事は」
「⋯⋯虎探し、だ」
敦の目が大きく見開かれる。
「⋯⋯虎探し?」
「近頃街を荒らしている人食い虎だよ。倉庫を荒らしたり畑の作物を食ったり好き放題さ。
最近この近くで目撃されたらしいのだけど⋯⋯」
『ここは随分と物騒な町だね』
太宰を助け出すときと同様、どこか他人事であると思うように天使が言う。
だが、その横でガタッと音がした。
『⋯⋯敦君?』
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暁月臨(プロフ) - 凄く面白いです!更新待ってます!! (6月24日 16時) (レス) @page16 id: 59dc159e7e (このIDを非表示/違反報告)
雪ん子(プロフ) - 凄い好きです❗️続き待ってます! (2023年4月26日 17時) (レス) @page16 id: fa924563b5 (このIDを非表示/違反報告)
クラスペディア(プロフ) - 面白かったです!更新待ってます✧*。 (2022年12月22日 13時) (レス) id: d83e92e5af (このIDを非表示/違反報告)
かな(プロフ) - 面白いです✨ (2022年12月20日 5時) (レス) @page14 id: a32747b1ee (このIDを非表示/違反報告)
響輝@お気に入り400人突破ベリサンキュ(プロフ) - 面白かったです。続き楽しみにしてます (2022年11月24日 0時) (レス) id: d6b5ec7764 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:棘屋 | 作成日時:2022年11月21日 7時